08.マガナミ -風になりたい-
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ここは、どこ。
ここの人たちは、私を知らないような態度を取る。
ミナ地ではないのだろうか。
ミナ地から遠い場所なのだろうか。
けれど、これだけははっきりしている。
ここの人たちは、私に何か恐ろしいことをさせようとしている。
ミナ地の人々のように。
なぜなら、笑顔を貼り付けて、私に近づいてくる人たちはみんなそうだったからだ。
もう、いい。
どうにでもすればいい。
抗う気力も、持ち合わせてはいない。
言われるまま、望みどおりに動いていれば、それが一番楽だということは知っている。
逆らわず、余計なことはしゃべらない。
言われたことだけを黙々とこなすの。
それで命を落とすのだとしたら、それは、きっと、私がやっと許されたということなのだろう。
「マガナミさん」
通された部屋の隅で小さくうずくまっていると、先ほど戸口で顔を合わせ、この部屋へと案内した女性が、障子を少し開け、こちらを覗き込んだ。
「ちょっといいかしら」
人のよさそうな笑みをこちらに向ける。
やはり、とマガナミは静かに思った。
何かあるのだ。
自分をここへ招いた何かが。
いつだって自分に向けられた笑顔の後には恐怖があった。
――そう、いつだって――
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