08.マガナミ -風になりたい-
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深い、深い、森の奥地に、まじないを敷いて人を遠ざけ、外界と隔絶して生活する一族があった。
それがマガナミの一族、井染一族だ。
自然との調和を望み、生き物たちとの共存を重んじ、争いを厭い、無用な殺戮を嫌った。
一族以外の人間と交わらず、独立した生活を営む彼らには、彼らの世界観の根幹ともいうべき、絶対的な掟があった。
生まれたときから子守唄のように聞かされ、あまりにも当然のものとして彼らの元に存在する掟。
それはいわば空気であり、水であり、大地であった。彼らは、それが世界の理と信じて疑わない。
無用な争い、殺戮の無きこと。
生きとし生けるものへ感謝し、祈りを捧げよ。
一族みな助け合い、決して見捨てることのなきよう。
そして、決して、一族以外のものと交わってはならない。
古くから伝わる伝承を何よりの教訓として、一族の掟は生まれた。
この掟が、今までの彼らの生活を守り、そして彼らの気性を形成してきた。
どうしてそこに疑問を差し挟む余地があっただろうか。
しかし、ある事件が、平穏を守り、これからも永遠に続くと思われていた穏やかな生活に、戸惑いや恐れ、歪みを生んだのであった。
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