08.マガナミ -風になりたい-
(2/5)
――風に
私は、風になりたい。
みんなの頬を優しくくすぐり、鳥の長旅を助け、花の種を飛ばすの。
季節を運び、恵みの雨を呼び、日の光を大地に捧げよう。
私はどこにもいなくて、どこにでもいる。
そう、私は、風になりたかった。
自分という人格を忘れてしまいたかった。
消してしまいたかった。
私を解放してほしかった。
私さえいなければ、私は存在していられる。
幸せに、なれる。
あの光の下へたどり着ければ、きっと、それが叶うはず。
そう、光へ――
光へ。
手を伸ばして、光をつかんだ。
――でも
目が覚めたら、私はそこに、いた。
白くて四角い、箱の上。
この両手。
この手を動かしている意識。
疲れ果てた心は誰のもの?
行き着いた先は、自分の身体だった。
神よ。
あなたはここまで私のことがお嫌いなのですか。
あの時、私は、絶望の沼に沈んでいく自分の心をただ呆然と感じていた。
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