08.マガナミ -風になりたい-
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硬く閉じた瞳。
冷たい流れの中、ただ、ただ、水圧を感じていた。
このまま、どこか、遠く、遠く、誰の目にも届かないところへ、いざなわれていくのだろう。
やがて魚たちが私をついばみ、私は海の一部になって、海中のかわいい生き物たちをやさしく包み、やわらかな海草を揺らし、いつしか、太陽に恋焦がれて、風になる。
身を委ねて、ただ、流れるままに。
命の生まれるところへ。
ふいに、流れの向こうに小さな光を感じた。
とても暖かくて、私の全てを受け入れてくれる光。
ああ、あそこだ。
きっと、あちらに行かなければならないのだ。
うっすらと瞳を開く。
しかしそこに映るのは、果てのない暗い流れ。
地の底に続く流れの遥か上空から光が射し込んでいる。
決して届くことの無い、光。
そうだった。
私の行き着く先は知れている。
罪の先にあるのは、永遠の闇だけ。
どうして私に何かを望む権利があっただろう。
このまま、流れのままに、届かない光を見送って、私は闇に落ちるのだろう。
それが私の生の結末。
私の定め。
けれど、あの光は、まるで私を呼んでいるように、揺らめいている。
呼んで、いる?
行きたい。
――望みを
せめて、生きている間に得られなかったのならば。
――安らぎを
私もほしい。
――居場所を
水を掻いた。
夢中になって。
上へ、上へ。
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