07.奈良家へ
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チラチラ、チラチラ、暖かな日の光が瞳に揺れる。
眩しくて、周囲の景色はよく見えない。
お気に入りの場所を陣取り、いい気持ちで、うつらうつらしている。
目の前に影が出来た。
覆いかぶさるように人が覗く。
後ろから射す光で顔は影になっている。
チラ、チラ、光が揺れる。
人影の口元がゆっくりとほころぶ。
「また来たんだ」
からかうように、笑う。
「あんたこそ」
返答する自分の声は、まだ幼い。
「まあね」
ふわりと横に腰を下ろす。
すらりとした、大きな身体。
お姉さんと呼べる年齢だということはわかる。
だが、幼い自分にとっては、一定以上の伸長があれば、みなお姉さんであり、その人の正確な年齢はわからない。
両手を組んで、思い切り伸びをしている。
サラサラ、と、木ノ葉がじゃれ合って音をくすぐる。
風が光を散らす。
「いい里ね、ここは」
視線を前に向けたまま、囁く。
大地に響くような、低く、艶やかな声。
唐突に何を言い出すのかと、訝しげに人影を見上げる。
「私、この里に恩義があるの」
噛み締めるように、歌うように、つぶやく。
そのまま、口を閉ざした。
なんと答えてよいのかわからないので、そのまま黙っている。
雲が、ゆっくりと空を流れる。
「いつか」
再び沈黙は破られる。
「私の知り合いが木ノ葉に来るかもしれない。その時は、よろしくね」
口にしたのは、予言めいた、不可解な言葉。
「どうして、そんなことがわかるんだよ」
わけがわからず、ムスッと尋ねる。
「私が、行けって言うからよ」
いたずらめいていて、どこか誇らしげな口調。
太陽の一部を雲が隠す。
屈折した光が、自分を鋭く照らす。
目の前が真っ白に染まる。
眩しくて、目を開けていられない。
隣に座っていた女性が何事かを言って立ち上がる。
何を言っているのか、聞こえない。
女性の気配が遠ざかっていく。
それと同時に、自分の意識も遠のいていった。
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