01.邂逅
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――いつの間に。生き物の気配なんてしなかったぞ。
…死んでるのか。
腰のクナイを意識しながら注意深く近づいていく。
側に寄ってみると、それは自分と同年代の少女だった。
血の気が失せている。
やはり手遅れだろうか。
胸に耳を当てて心音を聞く。
弱々しいものの、トクトクと脈打っていることに気づく。
――生きてる。
面倒なことに巻き込まれる予感がした。
出来れば関わりたくない。
シカマルの心がぼやく。
得てして、こういうときの予感というのは当たるものだ。
そうでなければよいと望めば望むほどに。
――だがまぁ、このまま放っておいて死なれちまうのもめんどくせぇ。
軽くため息をついて、少女を担ぎ上げ、木ノ葉病院へと向かった。
病院に着くと、日ごろの経験で培ったのだろう、素早く異変を感じ取った看護士たちが少女を引き取っていった。
予想はしていたが、かなりひどい状態のようだ。
てきぱきと指示が飛び交う。
自分に出来ることはもう残っていない。
さて、どうするか。
シカマルは思案する。
外は豪雨、特にすることはなし、突然現れた少女のことが気にならないわけではない。
となると。
シカマルは少女の容態を見届けることにした。
病院の長いすに腰を下ろす。
先ほどの喧騒が嘘のように、院内には病院特有の静寂が戻っていた。
人影もまばらだ。
窓の外の降り止まない雨に視線を移す。
唐突に現れた少女。
彼女は何者だろうか。
あの時、確かに人の気配らしきものは感じられなかった。
激しい雨が降っていたとはいえ、生き物の気配、それも人の気配があれば気づける自信はある。
だが、シカマルの意識にかかることなく少女は現れた。
ほとんど虫の息だったにしても、だ。
バックを取ったというよりは、投げ出されたという感じではあったが。
そうだ、彼女は自分自身で動ける状態ではなかった。
――投げ出された――
ということは、投げ出した何者かがいるということだろうか。
だとしたら、その何者かは、シカマルに気づかれず背後を取り、少女を投げ捨て、その場から去ったということになる。
そこまでのことをされておいて、気付かないということがあり得るだろうか。
自分の実力を過信するつもりはないが、そこまで愚鈍であるとも思わない。
が、もし万が一そうなのだとしたら
――相当出来るヤロウだってことだ。
まず忍とみて間違いないだろう。
だが、それが木ノ葉の忍である可能性は限りなく低い。
自分の里でそのような不可解な行動を取る必要性がないし、なにより、木ノ葉の忍には、瀕死の状態の怪我人を道端に放り出してそのまま立ち去るような人間はいない。
とすると他国の忍ということになるが、通常、他国の忍は通行許可証、滞在許可証がないと里には入れない。
そして、許可証を携帯する忍が、他里で不審な行動を取るとは思えない。
他国との国際問題に発展する危険さえあるからだ。
総じて考えると、里を堂々と歩くことのできない侵入者の犯行ということになる。
だが、堂々とした行動を起こせない人間の仕業だとすると、なぜわざわざ人のいる場所に置いていく必要があったのだろうか、という疑問がわく。
この天気だ、人気のないところなど他にいくらでもある。
侵入を悟られるというリスクを犯してまで、誰かに認識させる必要があったのか。
少女に死なれては困る、とか。
――やめだ。仮定が多すぎる。そもそもそんな人間がいたかどうかも定かじゃねんだ。推測に推測を重ねても仕方ねぇ。
――とにかく。確かなのは、あの女には注意しといたほうがいいってことだ。
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