06.サクラと少女と拙い会話
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「シカマル、あなたもう少し、相手のペースに合わせて話してあげなさいよ」
病院からの帰り道、サクラが諭すように言った。
「彼女、なんだか色々あるみたいだし」
「オレにはあれが精一杯だ。十分気持ちも汲んだつもりでいたんだぜ」
苦りきった顔で頭をくしゃくしゃと掻く。
サクラはそんなシカマルの横顔を見て苦笑した。
「確かに、少し難しい子よね」
「少しどころじゃねーよ。会話も通じてるんだか通じてねーんだか。途中から宇宙人に見えてきたぜ」
「シカマル、それ言い過ぎ」
サクラがシカマルをたしなめる。
「あの子、あまりいい暮らししてなかったんじゃないかしら。看護師さんの話だと、ろくな食事してなかったんでしょう?ずいぶんと細かったし、それに髪の毛も、長いっていうより、手入れがされてないみたいだった。年頃の女の子にしてみたら、髪は命なのに」
こういうところが男と女は観点が違う。
シカマルは髪型など気にも留めていなかった。
表情やしぐさはよく観察したつもりだったのだが。
「それにしても、一体何があったのかしら。故郷のことを聞かれたとき、ずいぶん怯えてたみたい。崖から転落したって、まさか故郷の人たちとトラブルでもあったんじゃ…」
「かもな。
それより気になるのが、あいつを川からここまで運んできた可能性のある『もう一人の人間』の方だ。
あいつが言うには仲間はいないって話だし、嘘をついているようにも思えねぇ。
少なくともあいつは相手を知らねんだ。
残る可能性は、相手が一方的にあいつを知っているか、たまたまあいつをターゲットとして選んだだけか…そもそも、そんな人間は存在しないか…だ。
こいつの存在に関しちゃ、あくまで推測の話で、姿を見たわけでもなんでもねーからな。
だが、存在しねぇってことになると、川に落ちたあいつがどうやって木ノ葉に来たのかが問題になるんだよな」
シカマルはあごに手を当て、考え込む。
そんなシカマルを見て、サクラは少し顔を曇らせた。
「シカマル。あなたが里を心配する気持ちはよくわかる。けど、あの子のことも、ちゃんと考えてあげて。あの子は確かに素性のわからない子だけど、知らない土地で怯えてる女の子なのよ」
シカマルは顔を上げてサクラを見た。
サクラの言わんとすることはわかる。
しかし、何よりもまず優先すべきは里の安全だ。
「言いたいことはわかる。けどよ、オレはこの件について全面的に任されてんだ。里に害が及ばないよう配慮する義務ってもんがある。それに、いつまでになるかはわかんねーけど、あいつが気兼ねなくこの里にいられるためには、身分を証明するのが一番いーだろーが」
「それはそうだけど」
サクラはどことなく納得がいっていない様子だ。
歯切れが悪い。
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