15.一歩近くに
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「じゃあ、また来るわね」
「今度はお土産持ってくるよ」
サクラとチョウジが暇を告げると、マガナミはほんのわずか、表情を曇らせた。
玄関まで見送り、挨拶を交わす。
サクラの「またね」という言葉に、マガナミはその曇った表情を緩めていた。
家に足を運んでもらったということもあり、シカマルは二人を途中まで送ってゆく。
道すがら、自分の素直な感想を二人に話した。
「今日はサンキュな。あいつ、ずいぶん喜んでたみたいだ」
サクラとチョウジは意外そうな顔をする。
「それならよかった。もしかしたらまだ早かったかもしれないと思ったから」
「うん、まだボクたちを警戒してるみたいに見えたよ」
今度はシカマルが意外だという表情を浮かべた。
「んなことねーよ。あんなにリラックスしたトコ初めて見たぜ。お前らが帰る時もずいぶん名残惜しそうな顔してたしよ」
サクラとチョウジは顔を見合わせる。
チョウジがにっこりと笑った。
「シカマルがそう言うならそうなんだろうね。安心したよ。ね、サクラ」
「そうね。そっか、名残惜しそうにしてたんだ。ちょっと嬉しいかも」
サクラも笑みを浮かべて応じる。
二人の反応にシカマルは半信半疑で聞いた。
「お前ら、ホントにわかんなかったのか?」
二人は同時に頷く。
「シカマルじゃないとわからないんじゃないかな」
「まだまだ表情は乏しいもの」
「そうかぁ?」
あんなに顕著なのに、と納得がいかない様子のシカマルは、二人が頷き合ってクスクス笑っていることには気付かなかった。
「もうこの辺でいいよ」
「また様子見に行くわね」
二人と別れたシカマルは、再び家に引き返すのだった。
家に入ると、マガナミが玄関まで出てきた。
落ち着きなく瞳を動かし、何か言いたそうにしている。
「急で悪かったな。嫌だったか?」
シカマルが尋ねると、マガナミは必死の形相で首を横に振った。
助けを求めるように周囲を見回す。
そうか、と続けようとしていたシカマルは、マガナミのあまりの慌てように吹き出してしまった。
「わかったよ。嫌じゃなかったんだろ」
シカマルの言葉で、マガナミは目に見えて安堵した。
肩が大きく下がる。
「うん」
わかっている。
サクラとチョウジはわからなかったと言っていたが、本当に嬉しそうにしていたのだから。
玄関まで出てきたのも、おそらく二人と話したことで、彼女なりに高揚していたからだろう。
二人はまた来るか、それを確認したかったのかもしれない。
シカマルは自然と笑みを浮かべた。
「また連れてきて構わねえか?」
マガナミは大きく頷く。
「うん」
「そうか」
シカマルは、飾り気のない返答にまた笑った。
鹿威しの乾いた音が耳に届く。
マガナミは少しずつ変わろうとしている。
今までは恵まれた生活はしていなかったのかもしれない。
もしかしたら虐げられて生きてきたのかもしれない。
けれど、人は変われる。
役割は、日々変わってゆくのだ。
この鹿脅しと同じように。
シカマルはどことなく浮足立ったマガナミを眺めた。
こいつは、やはり今起きている事件とは無関係なのではないだろうか。
いや、無関係であればいい。
シカマルはそう思った。
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