Dear.マルコ

03.聡明な彼は言いました


私は地学研究会の活動場所として使用されている特別会議室のドアを開けた。

中には五人の生徒の姿がある。

彼らの視線が一斉に私に向いた。

その中の一人がパッと腰を浮かせる。

「やあ、グレーテ。どうかした?」

金色のショートボブに理性の宿る青い瞳。

私はその人物に笑い掛けた。

「アルミン、あなたに用があって。今、暇?」

アルミンは苦笑した。

「暇、とは言えないけど。大丈夫だよ、なに?」

ちょっとちょっと、と私はアルミンを誘い出す。

近くの小会議室へ連れ込んだ。

アルミンはクスリと笑う。

「どうしたの、グレーテ?久しぶり…というか突然だね。吹奏楽部は今日は?」

「顧問の先生が出張で自主錬なの。ホント、久しぶり。元気?」

「まあね。グレーテも元気そうでよかった。それで、用って?」

私は今さら気恥ずかしくなって照れ笑いを浮かべた。

「いやあ、こうやってわざわざ呼び出して聞くほどのことじゃなかったなぁ」

アルミンは小さく吹き出す。

「そう言われると、僕はここに来た甲斐がなくなるなぁ。せっかくだから話してよ」

私はそれもそうだと首を振った。

「アルミンは知ってるんじゃないかって、ミカサが言うから」

「ミカサが?何を?」

私はウンと喉を鳴らしてから本題に入った。

「ねえ、あなたたちがよく一緒にいる人たち、いるでしょう?」

「いつも一緒にいる人たちっていうと…」

「エレンや、ミカサや、ライナー、アニ、ジャン、マルコ…」

アルミンは思い至った様子で相槌を打つ。

「どんな関係なの?」

「高校に入って知り合ったんだよ。それぞれが知り合いを連れて集まったら意外と大所帯になったんだ」

模範解答のような返事に、私はすうと目を細める。

ゆっくりとアルミンに目を合わせた。

「本当に?」

アルミンの目が僅かに見開かれた。

ように見えた。

しかし瞬きする間にそれは消え失せ、後にはゆったりとした笑みが浮かんでいた。

「本当だよ。嘘をついても仕方がないじゃないか。グレーテは何が引っ掛かってるの?」

「いや、高校で初めて顔を合わせたようには見えないからさ」

「そう?」

「うん」

「グレーテから見ると、僕らはどんなふうに見えるのかな」

私は改めて問われて首を捻る。

あの一団を表す言葉を探した。

強い結束の中に見え隠れする遠慮、躊躇。

会話の端々に窺える探り合うような気配。

それは相手を攻撃するためではなく、気遣うために行われているようにも思えるが、何かに触れないように必死になっているようにも思える。

ぎこちない目配せ、無言の会話――

それは一言で言うなら――

「そうだな、共犯者って感じかな」

アルミンの動揺は先ほどよりはっきりしていた。

私はそれなりにいいことを言ったようだ。

やはり、あの集団には何かあって、アルミンはそれを知っているのだと、私は悟った。

やがて、アルミンの口元に自嘲とも取れる笑みが浮かぶ。

「共犯者、か」

私は更に続けた。

「ミカサも、アルミンは彼らと知り合いなんじゃないかって思うことがあるって言ってた」

アルミンはこれにも反応する。

「ミカサが、そう言ってたの?」

私は頷く。

アルミンの瞳は、そのまま思考に沈む。

私はその様子を注意深く観察していた。

「そっか、気をつけなくちゃな」

「何に気をつけるの?それは、あの一団が何かの共犯者だって認めてるの?」

アルミンは参ったというように笑った。

「そうだね。グレーテ、きみは正しい」

私はやった、と内心でガッツポーズを作った。

続く言葉を待つ。

しかし、アルミンはそれきり何も言わなかった。





20170708


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