Dear.マルコ

02.あなたのことを知りたいです


「ねえミカサ、いつも話してる人たち、どんな知り合いなの?」

ミカサは少し首を傾げた。

「誰?」

「ほら、クリスタとユミルとか、うちのクラスのライナーとアニとか、D組の背の高い人とか。集まってるでしょ?エレンとアルミンもよく一緒にいる」

ああ、とミカサは頷く。

あまり抑揚のない声でつづけた。

「ここに入って知り合った。アルミンが仲良くなって、私とエレンも」

ミカサの言葉はいつも少しだけ足りない。

ここまで言えば伝わるだろうと、途中で台詞を放り出す癖があった。

私はそんな彼女の拙いようにも聞こえる話し方が気に入っていた。

「高校に入ってから?ホントに?もっと前から知り合いだったような雰囲気なんだけどな」

ミカサは首を振る。

「私は知らない。でも、アルミンは知っているんじゃないかと思うことがある。本人は否定していたけど」

ふうん、と私はアルミンを思い浮かべた。

聡明そうな青い瞳が脳裏に映る。

彼は賢いがゆえに、時々そういう意味深な表情をして私や周りを警戒させることがあった。

そうか、アルミンが何か知っているのか。



その一団は、何というか、始めから特異な雰囲気をまとっていた。

入学式から間もないというのにまるで旧知の仲のようで、私がミカサたちと同じ中学でなければ、同じ中学の出身者が集まっているとしか思わなかっただろう。

だが、私はあの一団が同じ中学の集まりではないと知っていた。

そんな私があの集団に抱いた印象は、「気心の知れた仲」というのとは少し違っていた。

あの集団にはある種の緊張感が存在しているように思えた。

それは前面に押し出されるようなはっきりとしたものではなかったが、ふと下を向くと足元を密やかに、しかし確かに流れている、そんな類のものだった。

そして、遠慮と後ろめたさ、それから探り合うような空気。

互いを昔から知っているようでありながら、その様子はどことなくぎこちなく感じられた。

それでいて、とても強く結束してる。

その中に他人が入っていくのは不可能だと思わされるような、高くて厚い壁が存在していた。



そして、その輪の中に、彼とあの子もいる。



私はその乗り越えることのできない透明な壁の中に囲い込まれた二人をただ外から眺めているしかないのだ。

それが、ひどく空しかった。



特にあの子は、その集団に見守られているように見えた。

時折、周囲の人間が彼女の言動を静かに観察し、成り行きを注視しているように感じられる時がある。

まるで、何かを待っているような――

「ま、それはミカサに対しても同じなんだけどね」

話は終わったと思っていたミカサは、不思議そうな顔をした。

「なに?」

「ううん、何でもない」

またね、と手を振って、私はB組の教室を後にした。



どうしたら近づける。

どうしたら彼は――



――たとえこの壁を越えたところで、あの子がいる限り、彼はこちらを向くことはないのだろう。





20170703


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