迷い猫を捨てないで

16.お客様は神様


立て直す、とは言ったものの、店の被害は甚大だった。

あのボロ小屋、どうすりゃええねんとイルメラは頭を悩ませる。

まず、金がなかった。

次に、金がなかった。

三四がなくて、五に、金がなかった。

つまり、圧倒的な資金不足であった。

他にも、風評被害や客離れなど問題は山積みだったが、とにもかくにも今、イルメラの頭を悩ませているのは金であった。

現状、動物たちの食費と治療費だけが膨れ上がっている。

もちろんそれは動物たちのせいではない。

管理者としての責任を果たさなかったイルメラ自身が悪いのだ。

だからこそ、イルメラが何とかしなければならない。

とはいえ、圧倒的な資金不足の前になす術もないというのが正直なところだった。

「世の中、金…金、金、金…所詮金なんだよなぁ!んがぁー!!」

頭を掻きむしる。

どうする?

廃材をもらってきて自分たちの手で修繕すると言いたいところだが、兵団に廃材を分けてくれるようなところとは、既に正式に取引が行われている。

そしてそれは、壁外調査に使用する武器や荷台の修理に使用されていた。

初期経費を得ることができたのは、ただの一度きりということもあったし、リヴァイが責任を持つと口を添えたことも大きかった。

今回の事態はイルメラが考慮して対策を講じておくべき事柄だったのだ。

「あー!うー!!どうすれば…!?」

「イルメラさーーん!!」

乱暴な音と共にドアが勢いよく開いた。声でわかってはいたが、掛け込んできたのはブルーノだった。

「騒々しいなぁブルーノ!今忙しいんだけど!」

「これこれ!これ見てください!」

ブルーノはイルメラの机に大量の封筒をばら撒いた。

「あっ、こらこら!何これ?」

「手紙です!店に届いた手紙!読んで読んで!」

イルメラは差し出されるままに手紙に目を落とした。

『お店大丈夫ですか?動物たちは怪我などしていないでしょうか?心配です。お店の再開をお待ちしています』

『お店大好きです!嫌がらせなんかに負けないで!』

『またわんちゃんとあそびたいです』

そこには多くの励ましの言葉があった。

店を案ずる言葉があった。

イルメラの手が小刻みに震えた。

「あのお店がこんなに必要とされてたなんて…俺、なんか感激です…!」

涙ぐむブルーノに、イルメラも目頭を熱くする。

「ホントだねぇ…」

『お料理もおいしかったし、雰囲気もよかったです。またあの癒しの空間を満喫したいです』

『従業員の方々も気を落とさずに。応援しています』

『お店の修理、寄付金を募ってはいかがでしょうか。私も少額であればご協力できます』

「ん?」

「え?何です?」

ブルーノはもはや手紙を抱えてむせび泣いていた。

「いや、これだよこれ」

イルメラはブルーノに手紙を見せる。

「み、見えません…」

「涙を拭え。鼻水もな」

「ええと、どれどれ…お店の修理、寄付金を…募ってはいかがでしょうか!?」

ブルーノの両目が大きく見開かれた。

イルメラは大きく首を振る。

「イルメラさん、これ、これ…」

「うん、うん」

二人はどちらからともなくガッチリと抱擁を交わした。

「これだーーー!!!」





(20141013)


- 17/22 -

[bookmark]



back

[ back to top ]

- ナノ -