迷い猫を捨てないで | ナノ

09.まあそれなりに色々あるんだよ


「リヴァイが元々地下街の住人だったってことは?」

四人は知っているという意味を込めて頷いた。

ハンジも小さく相槌を打つ。

「地下街で無断で立体起動を乗り回してるリヴァイと数人の仲間たちをエルヴィンが兵団にスカウトしてきたわけだけど、その仲間の一人がイルメラだったんだ」

四人は視線を交わし合った。

リヴァイが元地下街のゴロツキで、団長がここにスカウトしてきたということは人伝に聞いていた。

が、彼に仲間がいたということや、その仲間の一人がイルメラであったということは初耳だった。

「それにしてはあの二人、昔馴染みって雰囲気があんまり感じられないように思うんですが」

グンタが首を捻る。

「それに、他の仲間らしき人物も見たことがありませんね」

エルドの言にペトラとオルオも同意した。

「『一応上司なんだから仕方ないでしょ!?ムッカつくから、当てつけのようにこの一線を守ってやんのよ!』だって」

四人は苦笑した。

そういうことなら納得だ。

「守れているかと言われれば、それも疑問ですけど」

ペトラは笑いながら零す。

「でも、仲間っていうのは誰のことなんです?」

オルオが聞いた。

ハンジは何でもない風に答える。

少なくともそう装っているように見えた。

「壁外遠征で死んだよ。あの日は途中から霧が出て、ひどく視界が悪かったんだ」

四人は一瞬動揺を見せる。

が、やはり何でもない様に応じた。

「そうですか」

「賑やかなやつらだったなぁ。ノッポのファーランとはねっ返りのイザベル。リヴァイも彼らには気を許してたみたいだった。ううん、当時は彼らにしか心を許してなかった」

「イルメラさんは?」

ペトラがハンジを窺う。

「ああ…?あ」

ハンジはパッと遠くへ視線を遣った。

その視線の向こうから、人影が近づいてくる。

「まずい、リヴァイだ」

一同は何となく姿勢を正した。

「おい、こんなところで何やってる」

「別に。たまたま会ったから立ち話してたんだ。もう帰るよ。リヴァイは?」

「エルヴィンのところだ。今回の遠征の件で話があるらしい」

「こんな時間から?大変だねぇ、がんばって!」

「お前らも遠征に備えろ」

「はい!」

短い会話の後、リヴァイは団長室の方向に去っていった。

何となく共犯者のような沈黙が漂う。

そんな夜の静寂をハンジが破った。

「さ、そろそろ帰ろうか。いいかい?リヴァイはあまりこの話をしたがらないから、私が話したことは内緒にしておいてよ?それからイルメラにも。彼女はリヴァイと一緒に自分の名前を出されると反射的に怒るからね」

四人は、本日何度目かになる苦笑を漏らした。

別れ際、軽い挨拶をして自室へ向かおうとするハンジをエルドが止めた。

「イルメラさんは」

他の三人もエルドを見遣る。

「イルメラさんも、その遠征に参加していたんですか」

「イルメラさんは事務職なんだから、遠征にはいかないだろぉ?」

オルオが口を挟む。

「参加してたよ。事務職に移ったのはその後だからね」

グンタが尋ねる。

「やはり、その遠征が原因で?」

遠征で負った肉体的、精神的傷が原因で退団するものは多い。

また、事務職へ転向するものも少数ながらいた。

「どうだろう?きっとそれも影響してたんだろうけど、彼女が事務へ移ったのはそれから数回遠征を重ねた後だったからなぁ」

エルドは特に何かを確かめたかったわけではなかったらしく、ただ、そうですかとだけ言った。

「さ、他人の詮索もいいけど、今は遠征に備えなくちゃ。気を引き締めないと死んじゃうからね!」

「そうですね」

四人は苦笑い半分、真面目半分で頷いた。





(20140908)


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