迷い猫を捨てないで

08.あの二人はさ


数日後、店には客足が戻り始めていた。

店内は至って穏やかで、客たちも寛いだ様子で飲食を楽しんでいる。

ガラスで仕切った小部屋には、動物たちとの触れ合いスペースが設けてあって、食事をしながら動物たちの愛くるしい仕草を眺めることができるようになっている。

もちろん、中に入って直接触れ合うこともできた。

「なんか複雑」

イルメラは苦い顔をした。

ペトラが不思議そうに首を傾げる。

「何がですか?」

「兵長の言うとおりにした途端、お客が戻ってきたことが」

ペトラは苦笑した。

「いいじゃないですか。それが一番大事なことなんですから」

「その一番大事なことを兵長に諭された気がするのが複雑なんだって」

ペトラの笑みが苦味を増した。



「飲食スペースと動物たちのスペースを分ける」

あの日、リヴァイはそう言い放った。

「はっ…!?動物と一緒に食事できるのがこの店の売りなのに!」

「それは空調が整った部屋でこそ実現できることだ。こんな空気の籠った部屋で毛を舞い上げながら食事ができるわけねえだろ」

「う…」

「客から見えるように部屋を仕切って、中に入りたいやつは自由に入れるようにすればいい」

「うんん…」

「テーブルの配置も変えろ。東向きにした方が空気の流れがいい」

「むう…」



いちいち言っていることが的を射ているから癪に障る。

イルメラは動物たちのいる部屋で楽しそうにじゃれ合う人々を見ながら唇を突き出す。

ちぇ、上手くいってるんだから仕方ない。





店を閉め、もう少しやることがあるからと残ったイルメラに挨拶をして、リヴァイ班一同は帰路についた。

「軌道に乗ってきたな」

グンタが小さく笑む。

「ホント!リピーターもついてきたみたい!」

ペトラが嬉々として応じる。

「一時はどうなるかと思ったけどなぁ」

オルオが間延びした声で呟く。

「兵長のおかげだな」

エルドがおっとりと微笑んだ。

「兵長、ちゃんと気にかけてくれてたんだね。私、ちょっと感動しちゃった」

ペトラが目を輝かせる。

「まぁ元々あの兵長が招いた事態ではあるんだが」

グンタは苦笑いだ。

「しかし、もうすぐ壁外遠征って時期にわざわざ現地まで来てくれたんだから、ありがたい話だよな」

と、エルド。

「うん。準備も大変だろうにね」

ペトラはあくまでリヴァイには好意的だ。

「イルメラさんとは仲悪そうなのに、よく来たよなぁ」

オルオは頭を掻く。

その時、唐突に第五の声が響いた。

「仲が悪いわけじゃないさ」

一同は驚いて声のした方を振り向く。

ハンジだった。

「やあ、調子はどう?」

「いい感じですよ。イルメラさんとリヴァイ兵長のことですか?」

エルドが尋ねる。

手を上げながら近寄ってきたハンジは頷いた。

「昔馴染みだからね、あの二人は。気安い関係の延長だよ、あの口げんかは」

「昔馴染み?兵長って確か、元は地下街のゴロツキだったって…」

ペトラが好奇心を覗かせながらそっと窺う。

ハンジは今一度頷いた。

「聞く?」





(20140906)


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