迷い猫を捨てないで

07.私を無視して話を進めないで!


「お客さまご意見欄によると」

エルドが至って事務的な口調で次々に読み上げる。

『食事に毛が入る』

『不衛生』

『落ち着いて食事できない』

『この動物たちって血統書付いてるの?』

『客引きの人かっこいいですね!』

『お皿に汚れが付いてました』

『猫や犬ならその辺歩いてるし』

『臭い』

『むしろこのカフェの存在価値がわからない』

「今、一個全然どうでもいいのあったろ。それからオルオは後で執務室に来い」

「い…」

オルオの顔が蒼白になる。

イルメラは崩れ落ちた。

「クッ…一体何が悪かったの…?」

「イルメラさん!まだまだこれからですよ!」

ペトラがイルメラの肩を叩く。

「その通りだ…でも、一体どこをどうすれば…」

「全部だ…全てやり直せ」

突然その場にいないはずの人間の声がして、一同はビクッと背後を振り返った。

ペトラが驚きの声を上げる。

「兵長!」

店の入り口には、リヴァイが立っていた。

眉は険しく歪んでいる。

「全部って…どういう」

イルメラはまだポカンとしながら問う。

「お前らこりゃあ…どいういうことだ?」

「は…どういうって…」

「やる気があるのかと聞いている」

「な!どういう意味!?…ですか!」

一気に張り詰めた空気に、他の四人は固唾を飲む。

イルメラはリヴァイを睨みつけている。

リヴァイもどす黒いオーラを放っている。

そしてペトラは低い震えを聞いた気がした。

「え…?あれ…?地鳴り…?」

「汚え…」

地の底から染み出るような悪寒を感じさせる声だった。

ペトラの背筋を冷たい静電気が走る。

地の底から染み出るような悪寒を感じているのは、むしろリヴァイ本人だった。

彼は忌々しげに店内を見回す。

「俺はこんな倉庫みたいな部屋で犬っころと飯を食うのは御免だが」

イルメラが顔面のパーツというパーツをつり上げた。

「倉庫だったんだよ、ここは!んで、どの口が何つった今!?幻聴だとは思うが、犬っころは飯のタネにならんっつったか!?」

「うるせえな」

「あんたがそうさせてんだ!!」

「イルメラさん!落ち着いて!」

「ええい、離せグンタ!!」

「よくこんな劣悪な環境で客に食事を出せたもんだな」

「何ぃ!?ちゃんと掃除したわ!見りゃわかるでしょ!?ああわかんないか!あんたは無菌室系男子だもんなぁ!?たいていの場所は汚染されてるんだろうよ!」

「ペトラ」

リヴァイはイルメラから視線を逸らす。

ペトラの肩が大きく跳ねた。

「はっ、はいっ!」

「掃除用具を持ってこい」

「はい!」

「エルド」

「ハッ!」

「テーブルと椅子を全て外に出せ」

「了解」

「オルオ」

「はい!」

「動物たちを脇へ避けておけ」

「わっかりました!」

「グンタ!」

「ハッ!」

「ついて来い」

「はい!」

「おぃぃ!人を無視すんなぁぁー!!」

イルメラの怒声は動き出したリヴァイに忠実な部下たちの立てる騒音によってかき消された。





(20140901)


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