迷い猫を捨てないで | ナノ

18.男同士の無言の会話ですか?


「やった!大成功だよみんな!」

イルメラは万歳三唱した。

「よくこれだけ集まりましたね!」

いつもは後ろで穏やかな笑みを浮かべていることの多いエルドも興奮気味である。

「みんな、こんなにこの店のことを考えてくれてたなんて…」

ペトラは感動して涙ぐんでいる。

「これを知ったら商会も手荒なことはできないでしょう!」

グンタが拳を握った。

オルオとブルーノは抱き合って涙を流している。

「私たちが戦ってきたことは無駄じゃなかったってこと!こうして寄付してくれた人たちのためにも一日でも早く店を立て直さないとならないよ!」

そう、あの一通の手紙をきっかけに、イルメラたちは店の修繕のための寄付金募集に踏み切ったのだ。

店の現状を訴え、動物たちの様子を写真付きでまめに伝え、店再開への意欲を熱意ある文章に載せた。

反応は想像以上だった。

お昼時によく顔を見せていた婦人たちや休日にふらりと立ち寄るメガネの青年、夕暮れ時、仕事を終えて帰る前にお茶を飲んでいく男性など、様々な人々が受付ブースに足を運んてくれた。

時々姿を見かけた身なりのいい紳士などは多額の寄付を置いていってくれて、その場にいた誰もが目を丸くしたものだ。

また、子どもたちがコインを握り締めて母親と受付ブースに来る様子には胸を打たれた。

小さな掌をめいっぱい伸ばして、早く帰ってきてねと言われた時には、みな涙を堪えて笑った。

お気に入りの猫がいるのだと母親がおっとり笑みを浮かべていた。

あの時の様子を思い返し、一同は感動を噛み締めた。

イルメラの言葉に力強く頷く。

「もちろんです!これから忙しくなりますね!頑張りましょう!」

ペトラの気合の一言に、皆掛け声とともに拳を振り上げたのだった。





それから店の立て直しにつきっきりだったイルメラは、ある日、久しぶりにエルヴィンとリヴァイに遭遇した。

「イルメラ、調子はどうだ」

エルヴィンがほんのわずか表情を緩める。

「団長、兵長、お疲れ様です。調子はいいですよ!すこぶるいいです!店は無事再開しましたし、客足も戻りつつあります。絶好調です!」

「そうか」

返事をするエルヴィンの顔は苦笑に変わる。

「商会から妨害を受けていたようだが、そちらの方は問題ないのか?」

「問題ありません!再開してからは何のアクションもないですよ!この先もないんじゃないですかね?」

エルヴィンは含んだ視線をリヴァイに向けた。

リヴァイはその視線に気付いたが、素知らぬ振りをして明後日の方向を向いている。

エルヴィンは特に何を言うでもなく、すぐにその視線をイルメラに戻した。

「どうして商会が何もし掛けてこないか、知っているか?」

リヴァイがチラリとエルヴィンを振り返る。

「エルヴィン」

「知ってますよ!」

イルメラは意気揚々と答えた。

「ほう」

「お客さんのおかげですよ!お店を修繕できたのは、お客さんたちの寄付金のおかげ。お店の再開を喜んでくれるお客さんはたくさんいます。その事実を私たちが思いっきり商会に見せつけてやったんですよ!表の看板に集まった寄付金とお客さんたちの声を貼りだしておきました。あいつらが何より気にかけなきゃいけないのはお客さんの動向。あれだけ人々に慕われているお店に、これ以上手荒な真似はできないってもんです!」

ハッ!とイルメラは得意げに胸を張った。

エルヴィンは一瞬、目を丸くした。

そしてリヴァイを見る。

リヴァイは煩わしそうにエルヴィンを見返した。

エルヴィンは堪え切れず、小さく吹き出す。

「だ、そうだが?リヴァイ」

「だからどうした」

「それでいいのか?」

リヴァイは不愉快そうに眉を寄せる。

「何か問題があるのか?」

イルメラも怪訝そうにエルヴィンを見上げる。

「何か問題があるんですか?」

エルヴィンはため息を漏らす。

「なら私から言うことは何もない」

リヴァイはただエルヴィンを眺めている。

イルメラは眉を顰めて首を捻った。

「どういう意味?」

「私はこれで失礼するよ。リヴァイ、一時間後、執務室に来てくれ。次の壁外遠征の打ち合わせをしたい」

「ああ」

エルヴィンはやれやれと二人を残して歩き出した。





(20141023)


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