20.仲良くなる資格
今日の放課後は委員会の集まりがある。
私はもう一人の図書委員と共に、集合場所の図書室へと向かった。
図書室には既に他の図書委員たちが集まっていて、賑やかな話し声に満ちていた。
「オレ、あっちに知り合いいるんだ。行っていいかな?」
「うん」
もう一人が行ってしまったので、私は時間まで本を眺めて過ごすことにする。
県が読書に力を入れているため、この地域の学校の図書室は充実していた。
辞書、歴史書、哲学書、自然科学、芸術、文学。
ジャンルごとにカテゴライズされて、それぞれの棚に整然と並べられている。
私は感嘆のため息をついた。
やっぱりいいなぁ、図書室。
と、一人の女の子と目が合った。
金髪のセミロングに、ぱっちりとした大きな青い目。
品のよさそうな子だった。
柔らかそうな髪が彼女の動きに合わせて揺れる。
元から大きな目が、更に大きく見開かれていった。
「あ…」
彼女が何か言いかけたところで、彼女の肩に手が置かれた。
彼女はハッと手の方を振り返る。
「クリスタ、彼女は…」
私はその人物を知っていた。
「あ…フーバーくん」
そう、今日知り合ったばかりの、私の大事なシャーペンを持ってきてくれた、アニとブラウンくんの幼なじみでのっぽのフーバーくんだった。
彼はおろおろと視線を泳がせて、恐る恐る笑みを浮かべた。
「や、やあ」
その緊張した笑みに、私も不安になる。
彼は口下手で人見知りだとブラウンくんは言っていた。
彼につられて私まで固くなってどうするんだ。
しかし、胸の内にできた染みのようなわだかまりは、じわりと広がっていく。
「こんにちは。今日はありがとう。あの…シャーペン」
「いや。大事なものだったみたいで、よかったよ。もっと早く持っていければよかったんだけど」
「ううん、すごく嬉しかった。ありがとう。そういえば、フーバーくんも図書委員だってブラウンくんが言ってたっけ」
「うん、そうなんだ」
「ベルトルト、知り合いなの?」
ベルトルトの横にいた小柄な男の子が少し驚いたように聞いた。
彼もクリスタと呼ばれた女の子と同じく、金髪碧眼だ。
彼女より少し色素が濃いようである。
ショートボブにクリクリの瞳が、女の子のような印象を与えた。
隣にいるのがフーバーくんだから、背の低さが強調されて余計そう見えるのかもしれない。
「今日、ちょっとあって。知り合ったばかりなんだ」
「そうなんだ。ええと、僕はアルミン・アルレルト。ベルトルトと同じD組だよ」
「あ、ルーラ・クローゼです。C組で…」
「マルコの幼なじみなんだよね」
私は驚いた。
だが、すぐに事情を察する。
「ああ、もしかして、一緒にデニーズに行った?」
アルレルトくんはにっこり笑った。
「私はクリスタ・レンズ。B組だよ。よろしくね、ルーラ」
レンズさんはおっとりと笑う。
アルレルトくんとレンズさんは、知的で品のある雰囲気が何となく似ている。
「あ、うん、よろしく」
私は三人を見渡す。
「三人は知り合いなの?」
三人は一瞬固まったように見えた。
「僕とベルトルトは、クラスが一緒で仲良くなったんだ。クリスタとは、さっき知り合ったばかり」
他の二人はそれに同意する。
「そっか。同じ図書委員だし、これから――」
これから仲良くしてね、と言おうとして、私は瞠目して言葉を切った。
三人が不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの、ルーラ?」
レンズさんが心配そうな視線を向ける。
「う、ううん。なんでもない」
心臓が激しく脈打っている。
荒くなる呼吸を必死に抑えつけた。
今のは、どういう意味だろう。
頭の中にはっきりと聞こえた。
あれは、私の声だ。
吐き出すような声。
苦渋と後悔と自責の念に満ちた声だった。
――仲良くしてなんて言う資格、あるわけない!
それから三人と、互いのことについて話し合った。
出身中学や入っていた部活、友達のことなど。
アルレルトくんにも二人幼なじみがいて、その二人はレンズさんと同じB組だという。
「エレンとミカサっていうんだけど、二人ともすごく運動神経がいいんだ。もういろいろな部からスカウトが来てるみたい」
「へぇ、すごいね!」
「ベルトルトは空手部だったよね。僕は地学の研究会があるらしいからそこに入るつもりなんだ。クリスタとルーラはどうするの?」
「私は吹奏楽部に入ろうと思ってるの。中学でもやってたから」
「うわぁ、そうなんだ。楽器は何をやってるの?」
私は楽器が苦手だから、少し羨ましい。
「フルートだよ」
「あ、似合うね」
「そう?ありがとう」
微笑む彼女は美しさと可愛らしさを兼ね備えていて、思わずこちらの顔も緩んだ。
「そういうルーラはどうなの?」
「私は部活見学してから決めようと思ってるんだ。弓道部に憧れてたんだけど、空手部はどうかってアニが誘ってくれて。来週、ブラウンくんが連れてってくれるっていうから行ってみるつもりなの」
私はフーバーくんを見上げる。
「その、多分一緒に。…いい?」
フーバーくんはふわりと笑った。
「クローゼさんさえよければ、もちろん」
私はホッと胸を撫で下ろす。
「よかった。ありがとう」
図書委員集まれ、という声が聞こえて、一同は顔を上げる。
目で頷き合いながら、カウンターに立つ先生の元へと向かった。
(20140201)
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