impatience
(2/5)
「最近、ライナーとベルトルトと、何かあったみたいなんだ」
アルミンがポツリと漏らした。
「そうなのか?」
「うん。今まであんなに仲良さそうだったのに、近頃全然一緒にいないでしょ?」
オレは記憶を辿りながら曖昧に頷いた。
「けどよ、ベルトルトはともかく、ライナーが他人と…しかも女とイザコザ起こすなんて考えられねぇな。…って、おい、まさかあいつら…」
アルミンは慎重な視線を向ける。
多分こいつは知ってるんだろうと思うから、オレから情報を開示することにした。
「付き合ってんだろ。ルーラとベルトルト」
「ジャンも気付いてたんだね」
「現場を見たからな。…三角関係ってやつか?もうすぐ壁外調査だってのに、何やってんだあいつらは」
「うーん…時期もそうだけど、ライナーはちゃんと自制しそうだけどな。ただ、わかっていてもどうにもならない場合も、やっぱりあるだろうから…」
「お前らはなに見当違いな心配をしてるんだ」
オレは思わず後退った。
見るとアルミンは壁に張り付いている。
新種の爬虫類みたいだ。
「ライナー…いつからいたの?」
「女とイザコザ起こすなんて、の辺りからだ」
オレはひとつ咳払いをする。
「見当違いだってんなら、何なんだよ。なあ、ライナー。わかってるよな。もうすぐ壁外調査がある。ルーラのやつ、あんな状態で壁外に出たら、死ぬぞ」
「わかってる」
ライナーは眉をしかめた。
「だが、俺にはどうにもできん」
え、とアルミンが間抜けな声を漏らす。
「め、珍しいね。ライナーがそんなに簡単に白旗上げるなんて」
ライナーは苦虫を噛み潰したような顔をした。
そして、わずかに躊躇ってから歯切れの悪い口調で零す。
全くこいつらしくない。
「原因は俺だ」
オレとアルミンは顔を見合わせた。
「…ホントに、珍しいな。ライナーが他人とイザコザを起こすのも、原因が自分だとわかっていて何もしようとしないのも…。一体何があったんだい?」
「…言えん」
オレたちは再び顔を見合わせる。
「おいおい、言えねえとか言ってる場合じゃねーだろ。壁外調査まで間もねぇんだぞ。三角関係じゃないなら何なんだよ」
ライナーはむっつり口を閉ざしている。
「おいライナー」
「なあお前ら、悪いがあいつを少し気にかけてやってくれ」
オレは言いかけた言葉を飲み込んだ。
あくまでだんまりを決め込むつもりらしい。
これ以上は無駄ってもんだ。
「気にかける…って言っても、僕らは事情を知らないから、あまり的を射た対応はできないと思うよ?もちろん、僕たちなりに気にはするけど…」
「それでいい」
オレは鼻を鳴らした。
「ベルトルトのやつは関係あんのか?」
ライナーは表情を険しくする。
「あるんだな。お前が言わないなら、あいつに聞く」
「止せ」
「なら、言えよ」
「できん」
オレはため息をついた。
「話にならねぇ」
「ジャン、きっとライナーにもライナーの事情があるんだよ」
「オレはなぁ」
苛立った口調でアルミンを遮る。
事情?
んなもんクソ食らえだ。
「こんなくだらねぇことで同期が減るのは御免なんだよ」
アルミンの眉が下がった。
「ジャン…」
「行くぞアルミン」
オレはライナーの顔を見ずにさっさと歩き出した。
「ジャン。ジャンったら」
腕を掴まれてようやく振り返る。
「どこに行くの」
「決まってんだろ。ベルトルトのところだ」
「僕らが下手に動くことで、余計に事態が悪化することもあるんじゃないか?」
「そう思うなら、お前はついてこなくていい」
オレは腕を解いて歩き出す。
「ジャン、待てったら!」
「なんだよ。お前はお前の思うとおりにすればいい。オレはオレのやりたいようにやるさ」
アルミンは俯いて顎に手を当てた。
そして意を決したように顔を上げる。
「僕も行く。ジャンみたいに初めから喧嘩腰じゃ、聞けるものも聞けないだろ」
オレはまじまじとアルミンを見返して、ニヤリと笑った。
「そう来ねーとな」
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