like a bird eating stars
(2/4)
遠くからルーラを呼ぶ声が聞こえた。
同時にそちらを見やると、サシャが手を振っている。
ルーラは、行くねと笑って、パタパタと駆けていった。
まるで鳥が飛び立つように。
「それで、マルコは星になるまでは彼女の宿り木をやるつもりなの?」
思いがけず近くで声がして、僕は驚いて振り返った。
そして苦笑する。
「アルミン。聞いてたのか」
「僕はただ、そこのベンチで本を読んでいただけだよ」
僕は恥ずかしさをごまかすために頬を掻く。
アルミンは、今までルーラが座っていた位置に腰を下ろした。
「…羽を休めに戻ってきてくれれば、それでいいんだ」
「いつまでも、同じ枝に戻ってくるとは限らないとは思わないかい?」
「そうしたら、今度は枝に実をつけて待つさ」
「ベルトルトと二人でやってくるのを?」
おっとりした口調でずいぶん痛いところを突く。
僕は苦笑いした。
けれど、ジャンにも言わず、誰にも言わずにきたそれに気付き、そっと隣で話を聞いてくれたのはアルミンだった。
彼が僕を心配してくれているのがわかるから、苦痛ではない。
僕は少し考えて口を開く。
「僕も聖人君子ではないから、ルーラが幸せならそれでいいとだけ思っているわけではないんだ。けれど、そう思う気持ちは確かにあるし、何より厄介なことに、今のポジションもなかなか居心地がいいんだ」
アルミンはため息をつくように笑った。
「わからなくはないよ。でも、辛くはないの?」
全然辛くないと言えば嘘になる。
でも僕は、そういう気持ちを隅に追いやることができた。
「僕はそういう感情をコントロールするのが得意みたいなんだ」
アルミンは眉を落として微笑んだ。
「それは…損な性格だね」
僕も、そうかもね、と言って笑った。
「けど、誰かが行動を起こせば、きっとあっという間に関係が変わってしまうよ。今のところ、その可能性が一番高いのはルーラだけど、どうせ変わってしまうなら、行動を起こすのがマルコでもいいんじゃないかな」
アルミンは顔を上げて、僕の顔をまっすぐに見据えた。
「マルコ、僕らは兵士だから、いつどんなことが起こるかわからない。もちろん、だからこそ何もしないっていう選択肢もあると思う。だけど、後悔だけはしない方がいいと思うんだ」
アルミンは時々こういう目をする。
普段は穏やかに一歩後ろに控えていることが多いので、彼のこういう凛々しい視線を浴びると、思わず身が引き締まる。
彼の瞳の奥には、こんなにも強い意志が宿っているのだ。
しかも、彼が指摘するのは、自分でわかっていて曖昧に濁していたところだったから、僕は何も言えなくなってしまった。
「ごめん」
アルミンが慌てて謝った。
「口を出すつもりはなかったんだ。つい」
その顔はもう、いつもの彼だ。
「いや、いいんだ。わかってるよ、アルミン。わかってるんだ。ただ…今はまだ、もう少しこのままでいたいと思ってる」
あと少しだけ、せめて、訓練兵として共に生活している間は、この関係を壊したくない。
それはまるで羊水の中のような、温かくて心地よい空間だから。
アルミンは頷く。
「僕が言いたいのは、最後はマルコのしたいようにすればいいってことだから」
僕は目尻を緩めた。
「ありがとう」
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