08.サシャ的スピリット
「サシャ。お前いい加減にしろ。うっとうしくて仕方ねぇよ」
ユミルがうんざりした様子で吐き捨てる。
「そうだよサシャ。コニーだってわざとやったわけじゃないんだし」
いつもは私の味方をしてくれるクリスタも、今日はユミルを擁護する側に回ってしまった。
ただでさえ少ない味方だったのに。
私は頬を膨らませる。
「でも!私はまだ腹の虫がおさまりません!だってあのハム!!私は食べられなかったのに!コニーは食べたんですよ!!」
「お前は普段、勝手に食糧庫から食いもん漁って食ってるだろうが!」
「それはそれ!これはこれです!!」
「あーもう!付き合いきれん!!行くぞクリスタ!これ以上一緒にいるとバカがうつる!」
ユミルはクリスタの腕を取って、ヅカヅカ歩いていく。
クリスタはユミルに引きずられながら、早く仲直りしなよと叫んでいた。
「…まるで私が悪いみたいじゃないですか」
ふと気配を感じて顔を上げると、カヤがプカプカ浮かんでいた。
「カヤーー!!」
私はカヤに飛びかかった。
が、腕は空を掴む。
そのまま蛙の如く地面に這いつくばった。
カヤが慌てて私を覗き込む。
「うう…大丈夫です…」
立ち上がろうとする私の腕をカヤがクンと引いた。
「ありがとうございます。私の味方はもうカヤだけですよ」
私はカヤに泣きつく。
カヤはよしよしと頭を撫でてくれた。
『けんかしたの?』
「コニーが悪いんです! コニーが私のハムを…!」
あの時のことを思い出したらまた泣けてきた。
「ハム〜〜〜!!」
カヤは今度は背中を擦ってくれる。
『仲直りしないの?』
私は鼻をすすった。
「だって、ハムが…私のハムが…」
仲直りしたくないわけではない。
コニーは好きだし、一人でいると、彼とのやりとりが恋しくなる。
明日は謝ろうと寝る前には思うのだが、次の日コニーの姿を見ると、無残に踏みつけられたハムが鮮明によみがえるのだ。
仲直りしたくないわけじゃない。
でも、どうしてもあのハムのことが許せないのだ。
ううん、もうそれも本心かどうかわからない。
ただ、意固地になっているだけかもしれなかった。
『どうしたらいい?』
「…ハムを返してくれれば」
カヤは困った表情で私を見つめる。
『サシャ、無理だよ。わかるでしょ?』
私は癇癪を起こして腕を振り回した。
「わかってます、そんなこと!カヤまでそんなこと言わないでくださいよ!」
完全にやつ当たりだ。
そんなことはわかっている。
カヤはパチパチと瞬きした。
その顔はまもなく悲しみに歪むだろう。
どうせこれも私が悪いのだ。
カヤは泣きながらマルコかアルミン辺りのところに行って、今の出来事を話すだろう。
そしてどちらかが私を諭すのだ。
大人気ないよ、サシャ、と。
そう、どうせ全部私が悪いのだ。
カヤは私の肩に手を置いた。
私はやさぐれた気持ちでカヤの顔を見る。
ほらカヤ、泣いたらいいじゃないですか。
が、カヤはどういうわけか微笑んだ。
『少し待ってて』
「へ?」
カヤはふわりと姿を消した。
私は一人その場に取り残される。
マルコかアルミンでも呼びに行ったのだろうか。
「カヤ?」
待ってるって、いつまで?
私はポカンと口を開けたまま、その場に立ち尽くしていた。
(20140107)
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