17.バイバイ
「みんな、大丈夫?」
わたしは言った。
でも、みんなポカンとした顔をして返事をしてはくれない。
仕方ないか、確かにちょっとびっくりな光景だもん。
「今のうちに、安全な場所まで移動して」
みんなはまだ動かない。
わたしはアルミンの姿を見つけたので、彼に向かって話し掛けた。
「アルミン!お願い!みんなを連れてここを離れて!」
アルミンが我に返ったように身体を跳ねさせた。
「カヤ、きみ…話せたの?いや、そんなことより、これは一体…」
「声を出すとすごく疲れちゃうの。今日まで持たなかったら困るから黙ってた!」
「今日までって…カヤお前、今日起こることを知ってたっていうのか!?」
エレンが叫ぶ。
わたしは頷いた。
「わたしはこの日のために死んで、今日のために起きたの!」
「それ、どういうこと!?」
マルコが立ち上がる。
聞き捨てならないという顔をしたジャンとも目が合った。
「ちゃんと説明してる時間はないの!そんなに長くは止めておけないから!だからお願い!早くここから離れて!全部無駄になっちゃう」
「カヤはどうするの!?」
クリスタが心配そうに言った。
死んでるわたしの心配をしてくれるなんて、やっぱりクリスタは優しいや、と笑う。
「在るべき場所に還る。そういう約束だから」
「それ、死ぬってこと?」
アニが問う。
わたしはクスクスと笑ってしまう。
「もう死んでる」
「でも、消えちゃうってことだよね」
ベルトルトがどもりながらも声を張る。
「それが正しい形だから」
「お前、それでいいのかよ!?」
ジャンが怒鳴る。
わたしも怒鳴る。
「いいの!わたしが決めたことだから!この選択が、私の誇りなの!だから行って!お願い!」
「行こう」
アルミンが言った。
みんなを見回して、立ち上がるように促す。
「けど…」
エレンが躊躇いを見せるが、アルミンは首を振る。
「カヤが望んでる。そしてなにより、そうすべきだ。そうしなければ、ここで104期は全滅してしまう」
「事情は何となくわかった。行こう、エレン」
ミカサがエレンの腕を引く。
別の場所ではユミルがクリスタを引っ張っている。
みんなは少しずつ移動を始めた。
わたしが見える人たちが、わたしが見えなくて何が起こっているのかわからない人たちを先導している。
よかった。
みんなが安全な場所に辿り着くまでは持ちこたえられそうだ。
「カヤ!」
途中、ユミルが振り返った。
こちらを見上げている。
ユミルはわたしが見えないはずだから、きっと土砂の辺りにいると当たりをつけたんだろう。
「すまないな」
わたしはびっくりした。
ユミルに謝られてしまった。
いや、この場合お礼の意味だろう。
ライナーの声も聞こえる。
「恩に着る」
次々と、お礼の言葉が上がってきた。
「お前のこと忘れないぞ!」
「私もです!」
コニーとサシャの声も聞こえてきた。
それはあっという間に大合唱に変わる。
胸がジーンと熱くなった。
わたしは力いっぱい叫ぶ。
「みんな、バイバイ!きっと巨人に勝ってね!!」
「ああ!必ずだ!!」
エレンの澄んだ意志が返ってきた。
(20140522)
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