11.ユミル的スピリット
最近なんだか変だ。
「ユミルー!これ拾っといてくれたんだって?サンキューな!」
「ん?ああ…」
「ユミル、この前のやっといてくれたの、ユミルだったんだって?ありがとうね」
「ああ、別に…」
妙に礼を言われる回数が増えた気がする。
別に、人に感謝されるようなことをした覚えはない。
目について邪魔だったものをよけたり、別の場所にあったものを元の場所に戻したりしただけの話だ。
そんな小さなことでいちいち声を掛けられるのは煩わしい。
だから、次に礼を述べてきたアルミンに、なぜ自分がしたことだとわかったのか聞いてみた。
「カヤが教えてくれたんだ」
私は盛大に顔を顰めた。
合点がいった。
「おいアルミン、カヤんところに案内しろよ。ちょっと言ってやりてぇことがある」
「ユ、ユミルあまり乱暴なこと言っちゃだめだよ」
「何だアルミン?お前カヤに気でもあるのか?そりゃ不毛だな」
「そうじゃないよ!カヤはよかれと思ってやってるんだから、その辺りのこと汲んであげてってこと」
私は鼻を鳴らした。
「それが問題なんだろ。あいつがよかれと思ってやってることが、こっちにとっちゃ迷惑なんだ。そこをわからせてやらないと意味ねえだろ」
「そうするにしてもだ、言い方を考えてって言ってるんじゃないか」
「わかったわかった、努力するから早く案内しろよ優等生。私にはあいつが見えないから通訳も頼むぜ」
私はアルミンを半ば引きずるようにして歩き出した。
アルミンは渋っていたが、自分が断っても他の人に同じことを言うと思ったのだろう(もちろんそのとおりだ)、結局折れて大人しく先を歩いた。
「カヤ!」
アルミンが手を挙げた。
彼の視線の先には晴れた空が広がっている。
私には、ひらけた空間に向かって大声で独り言を叫んでいるようにしか見えない。
なんとも滑稽な光景だ。
「その、ユミルが話があるって」
アルミンがこっちを向く。
「なあに、だって」
私は一瞬躊躇った。
今さっきアルミンに感じた滑稽さを今度は自分が体現するのかと思うとうんざりしたのだ。
だが、まあいい。
この先煩わしい思いをするよりはマシだ。
「最近、私の素行をいちいち周囲にチクッてるらしいな」
「…得意げに頷いてるよ」
「止めろ。迷惑だ」
「…悪いことは言ってないってさ」
「良い悪いじゃねえだろ。自分の行動を他人が知ってるってのが気持ち悪ぃっつってんだよ。…おい、悪いことってのは何だ?」
「時々座学をサボってること、だって。…ユミル、教官に見つかったら大変だよ」
私は舌打ちした。
プライバシーも何もあったものではない。
本当に厄介なやつが居座っちまったもんだ。
「私たちにはプライベートも何もないらしいな。四六時中監視されてるなんてゾッとするぜ」
アルミンがこそこそと小声で話しかけてきた。
「止めなよ、落ち込んじゃったじゃないか。だいたい座学はプライベートじゃないよ」
「バーカ、このくらい言わないとわかんねーだろ。そもそもこいつは自分の特殊性を理解してるのか?してないだろ。誰かが教えてやらなきゃなんねえ。それを私がやってやってるんだ」
アルミンはため息をつく。
だが一理あるとも思っている、そんな顔だ。
「反省したって」
「わかればいいんだよ」
「ユミルは損をしてる。それが悔しかった、だってさ」
私は眉を潜める。
「損?私が?」
アルミンは私に向き直って苦笑した。
「ユミルは愛想がよくないからね。誰かのために何かをしてあげても、自分がやったって言わないし。そういうのを見てるのが歯がゆかったんじゃないかな」
私は、ハ、と息を漏らす。
「余計な御世話だ」
「ユミル!」
アルミンは窺うように空を見上げ、そしてクスリと笑った。
「あん?何だよ」
「ユミルの言うことはわかった、たまににするってさ」
もうこれ以上の会話は面倒だ。
私は盛大にため息を落とした。
(20140516)
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