at the time of choice

34.please give me time a little more


一行はウォール・ローゼ壁上に移動した。

立体機動を持っていないルーラたちは、それを持つ調査兵に引き上げてもらう。

壁上に着いたルーラは、ふやけたようにその場に座り込んだ。

色々なことがありすぎて、少し疲れた。

見ると、向こうの方でライナーも背中を丸めて座っている。

近くにベルトルトとエレン、それからアルミンもいる。

何か話しているみたいだ。



こうして遠くから眺めていると、どう見ても気心の知れた仲間同士だ。

ルーラが信じていた、ルーラが好きだった光景がそこにはある。

でも、もうあそこには戻れない。

戻れないんだ。



――もし、仮にだ、ベルトルトが巨人だったら、お前はどうする?



目を閉じれば、みんな笑っている。

巨人を駆逐して外の世界へ行くんだと強い瞳で言っていたエレンも、人類すべてが人質だと険しい顔をしたライナーも、優しいアルミンも、エレン一筋のミカサも、ジャンもコニーも、みんな笑っている。

ベルトルトも、皆に寄り添うように笑っていた。



ルーラは頭を振った。



眼下に広がる平原に目を移す。

遮るもののない開けた景色は、寄る辺のないルーラの心を無防備に晒しているようで、ひどく落ち着かない気分にさせた。



どうすればいいんだろう、私は。

どうしたいんだろう、私は。

…どうして、わからないんだろう。



今、こうして改めて悩んでいるのに、答えが出ないことがルーラは不思議だった。

ベルトルトを選ぶ覚悟を決めるつもりだった。

そのつもりで考えているのだろうと思っていた。

だが、思考はいつまで経っても答えを導かない。

なぜだ?

家族を奪われたという思いが、後を引いているのだろうか。

選択を迫られた時、何度となく頭を過った光景。

だが、結局のところ、それはルーラにとって足枷にはなっていない気がしていた。

むしろそれは、共に行けない言い訳として使われていたように思う。

どんなに辛くても、それは過去に済んで、確定してしまったことだ。

では、やはり、ルーラの帰属母体である人類へのしがらみか。

そもそも5年前、家族を失った時、ルーラは壁内のしがらみから解放されたはずだった。

縁とか、絆とか、故郷とか、そういうものから。

皮肉にも、そんなルーラに新たなしがらみを与えたのはベルトルトだった。

彼はルーラに新たな居場所を与えた。

二者の関係だけではない。

命を救われ、その後の人生を生きたことで、ルーラは訓練兵の同期や調査兵の仲間など、新たな関係を築いた。

家族を失ったルーラにとって、そこは家族のような存在となり、大きな心の支えとなった。

しかし、それでもなお、ベルトルトはルーラにとって特別だった。

他の何とも代替の効かない唯一無二の存在であった。

ルーラがこうして仲間と出会い、家族と思えるようになったのは、彼のおかげだからだ。

にも関わらず、ルーラはベルトルトを選べずにいる。

ルーラはそれが不思議なのだった。

何が自分を躊躇わせているのだろう。

何が自分をここに縫い止めているのだろう。



故郷か、恋人か。



言葉にするとそれはあまりにチープで、ルーラは笑ってしまう。

だが、そんな命題に、今は真剣にならざるを得なかった。

自分の運命と、彼らの運命が掛かっているのだから。

だが、どちらかを選択しなければならないとなれば、選ぶ道は決まっているように思える。

それは、考える余地のないことのように思えるのに。



「故郷だ!帰ろう!」



ベルトルトの声が聞こえてきた。

まるで誰かに言い聞かせるような、芝居めいた口調だった。

その誰かとは、ライナーに決まっている。

大きく両手を広げている。

必死に自分に注意を向けるように。

「もう帰れるじゃないか。今まで苦労してきたことに比べれば、後少しのことだよ」

後少し。

ルーラの胸が締まった。

後少し。

どういうことなのだろう。

何が、後少しなんだ。

なぜ、後少しなんだ。

決断の時まで、後どのくらいの時間が残されているのだ。



果たしてに自分は、それまでに答えを見つけることができるのだろうか。





(20131031)


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