at the time of choice

33.please let me be still by your side


ユミルは塔を壊すことを選んだ。

大きな衝撃と共に塔が傾ぐ。

皆、慌てて壁にしがみついた。

クリスタは縁に仁王立ちして大声で叫んでいる。

彼女の足元が浮いた。

ルーラは咄嗟に彼女に飛びつく。

「クリスタ降りて!!落ちる!!」

先ほど、この場の人類は全滅した方がよいと思ったことは頭の隅に埋もれている。

再び塔が揺れた。

足元が滑る。

ひやりとした浮遊感に肝を冷やした。

「あ…」

落ちる。

そう思った瞬間、大きな体に抱き留められた。

「ルーラ、しっかり掴って」

心臓が激しく脈打つ。

「あ、ありがとベルトルト…」

ユミルが目の前まで登ってきた。

『イキタカ、ツカアレ』

――生きたきゃ、掴まれ。

ルーラは迷わずユミルに飛び乗った。

塔は巨人たちを下敷きにして崩れ落ちた。

「やった!!」

ルーラは思わず歓声を上げる。

しかし、喜びも束の間、地響きが辺りを震わせた。

「え…!?」

大型の巨人たちが瓦礫の中から起き上がり始める。

「そんな…」

こうなると一気に危機的状況に逆戻りだ。

いや、むしろ塔という守りの要がなくなった分、切迫度は高い。

ユミルはすぐさま巨人に向かっていった。

が、疲れが出てきているのか、動きは鈍い。

巨人たちはユミルに群がっていく。

ルーラたちの目の前で、ユミルは肢体を押さえつけられ、皮膚を抉られていった。

「あ…あ…」

「そんな…そんな…」

堪らずクリスタが駆け出す。

「待ってよユミル…まだ…話したいことあるから…。まだ!私の本当の名前!!教えてないでしょ!!」

ルーラは目を剥いた。

クリスタの側に巨人が迫っていた。

「クリスタ!!」

背後から何かが弧を描いて飛んでいった。

深緑のマントが宙を舞う。

中央に、自由の翼が描かれている。

調査兵だ。

マントは綺麗な軌跡を描くと、無駄のない動きで、クリスタに手を伸ばしていた巨人のうなじを削いだ。

ミカサだった。

「クリスタ…皆も下がって」

続々と増援が駆けつける。

「後は私たちに任せて」

淡々とそれだけ言うと、ミカサは地を蹴り、飛んでいく。

瞬く間に巨人の掃討が始まった。

助かった。

そう思った瞬間、身体中の力が抜けた。

全身が小刻みに震え出す。

ルーラは自嘲気味に笑った。

どうやら、こんなにも死にたくなかったらしい。

目の前に影ができる。

ベルトルトが手を差し出した。

「無事でよかった」

ルーラは震えの収まらない手を重ねた。

「うん…」

もう少しだけ長く、彼と一緒にいられそうだ。

ユミルは、手足を失い満身創痍の状態ではあったが、命のある状態で助け出された。

彼女の全身からは蒸気が立ち上り、彼女を守るように包んでいた。





(20131030)


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