at the time of choice

32.please live


コニーが立ち上がった。

「最後に…陽を拝めるとはなぁ…」

6人は揃って同じ方向を見つめている。

塔を壊し続ける巨人ではなく、心を洗うような大きな光を。

やがてユミルが口を開いた。

「コニー、ナイフを貸してくれ」

コニーは言われるままにナイフを渡す。

「ありがとよ」

ユミルは低い位置にあるコニーの坊主を手のひらで叩いた。

「…何に使うんだよ、それ…」

「まぁ…そりゃ、これで戦うんだよ」

言葉の意図がわからず、みな眉を寄せた。

「オイ、ユミル?何するつもりだ?」

ライナーが当惑気味に問う。

「さぁな。自分でもよくわからん」

ユミルはクリスタに向き直った。

「クリスタ…お前の生き方に口出しする権利は私には無い。だからこれはただの…私の願望なんだがな、お前…胸張って生きろよ」

ルーラは胸騒ぎを感じた。

ユミルはどこか変だ。

何か大きな決意をした目をしている。

だが、今の状況でできる決意など、希望のあるものとは思えない。

多分、思い直させた方がいい。

と、思った矢先、ユミルは走り出した。

塔の縁に向かって走っていく。

「ユミル?待って!!」

クリスタの制止も聞かずに、ユミルはあっという間に塔から飛び降りた。

ルーラは声にならない悲鳴を上げて、縁にしがみ付く。

「ユミル!?」

ユミルは落下しながら、ナイフで手のひらを切り裂いた。

同時に閃光が走る。

次の瞬間、光の中から現れたのは――

巨人だった。

――確かにユミルもおかしかった。彼女も何か知ってるんだ。あなたたち、一体何を隠してるの。

やはり、ユミルも巨人だったのか。

戦慄が身体を駆け巡った。

「あ…あの巨人は…あの時の…」

僅かに震えを含んだ声を聞いて、ルーラは振り返った。

そして目を瞠る。

ベルトルトと、それからライナーまでもが、純粋な恐怖を顔一杯に浮かべていた。

それは、他人の介入を一切許さない絶対的な恐怖であるようだった。

ルーラは声をかけることができない。

二人の恐怖につられて、体を硬直させた。

三人は仲間ではないのか。

けれど、彼らはユミルを――正確にはユミルが巨人化した姿を知っているようだ。



ユミルは群がる巨人たちを次々に倒していく。

残された者たちはそれを呆然と見つめていた。

ユミルの正体や目的についての疑惑が飛び交う。

巨人たちはやはりユミルをも捕食対象とみなしたようで、動きを活発化させていた。

ユミルも応戦するものの、数の上で圧倒的に不利だ。

塔の崩壊は止まらない。

やがて、徐々に押され始めた。



塔が揺れる。

巨人の手が餌を求めて塔を叩く。

ユミルが巨人たちに押さえ込まえてゆく。

クリスタが叫ぶ。

こんな塔を守るくらいなら、壊してしまえと叫ぶ。



どちらでも構わない。

ルーラは思った。

このままではいずれ塔は倒壊する。

時間がどれだけかかるかの違いだ。

そして、塔が壊れたとしても、彼らだけは助かる。

彼らの正体を知った後のユミルの態度が気掛かりだが、立場は彼女も同じなはずだ。



何より、死んでしまうよりはずっといい。





(20131029)


- 33/37 -

[bookmark]



back

[ back to top ]

- ナノ -