31.please light us up
突然、激しい衝撃音とともに頭上が揺れた。
天井の欠片や埃が舞い落ちてくる。
ルーラとベルトルトは我に返って上を仰いだ。
「何だ!?」
一同は素早く視線を交わし合う。
一斉に屋上へ駆け上がった。
そして言葉を失った。
上官二人が傷だらけの身体で横たえられていた。
残りの二人、ゲルガーとナナバが傍で憔悴した様子で項垂れている。
「ダメだ…二人とも…即死だ。気を付けろ…壁の方角から岩が飛んできて、そいつにやられた…」
「そんな…」
クリスタが青ざめた。
「壁の方…?」
ユミルがその方向に視線を向ける。
コニーもそちらを指差して声を張り上げた。
「あいつだ!一体だけ壁の方に歩いていった…あの獣の巨人の仕業に――うぉ!!」
途中から驚愕の悲鳴に変わる。
「巨人多数接近!!さっきの倍以上の数だ!」
全員に激震が走った。
その後は悪夢のようだった。
塔には再び巨人が大量に群がっている。
たった二人の上官は、手当たり次第に巨人のうなじを削ぐも、少しずつ体力を消耗してゆく。
丸腰の104期生は、何もできずにただそれを見守ることしかできなかった。
ついにガスと刃に限界が来たゲルガーとナナバは、ルーラたちの目の前で巨人に食われていった。
後には未だ群がる巨人たちと104期生6人が残される。
絶望的な状況だった。
「あぁ…クソが…」
コニーが頭を抱えた。
「なぁ…このままここで…塔が崩されて、ただ食われるのを待つしかねぇのか。…ねぇのか、もう何も…もう」
ルーラは座り込むコニーの隣から下を見下ろす。
巨人の拳が、今また壁にヒビを作った。
そう遠くない。
この塔は崩れる。
「何か!!やることはねぇのかよ!!クソッ!!クソッ!!クソッ!!」
コニーは拳を壁に打ち付けた。
もどかしさ、悔しさ、絶望感。
やり切れない思いを吐き出すように、何度も、何度も。
「コニー!!」
ルーラはコニーの腕に飛びついた。
「止めて。やれることが見つかった時に、その手がちゃんと使えるように。ね?」
「あんのか?そんなもんがよ…」
――ない。
立体機動もない。
ブレードもない。
私たちは、巨人に対してこの上ないほど無防備で、無力だった。
ルーラは堪らず目を逸らす。
「…だよな」
が、コニーはそれ以上手を傷つけることを止める。
「せめて…何かこう…意味が欲しかったよな。任務も中途半端なまんま…全滅なんて…」
「そう、だね…」
何か言い争いを始めてしまったユミルとクリスタを横目に、ルーラは考える。
全滅はしなくて済むかもしれない。
ベルトルトとライナーを一瞥する。
この場の人類だけを見れば、全滅は免れそうにない。
だが、彼らなら、生きてここから脱出できる。
巨人化すれば、この周辺にいる巨人も振り切ることができるだろう。
その時、生き残っている人間がいなければ、彼らの正体が知られることもない。
二人だけなら、助かる。
彼らも逡巡しているはずだ。
あの表情を見ればわかる。
泣きそうな顔をしたクリスタを見る。
約束を思い出せと詰め寄るユミルを見る。
二人のやり取りに圧倒されているコニーを見る。
三人との思い出が過る。
そして笑顔が。
私たちがいなければ、二人は――
空が明るんできた。
濃紺に橙色の液体を流し込んだように、夜明けが左右に広がっていく。
状況も忘れ、みな、憑かれたように照度を増してゆく太陽を見つめた。
(20131029)
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