30.please don't forget your purpose
「とりあえず…使えそうな物は集めようぜ。死ぬ時に後悔しなくていいようにな」
ユミルの言葉をきっかけに、皆、塔内の捜索を始めた。
時折、明かり採りから外をのぞき込み、上官たちの戦況を気にする。
そんな彼らを横目に、ルーラは座り込んでいるライナーの側へ寄った。
「ライナー…」
「心配するな。大したことねぇよ」
「腕の傷も…そうだけど…」
ルーラは危惧に満ちた視線をライナーに向ける。
「もう少し、自分の目的、大事にしなよ…。故郷に帰るんでしょ?」
ライナーは軽く目を見開いた。
「ルーラ…お前…」
「ライナー、私、どうしたらいいか、まだわからないよ。でも…選ぶよ。どちらか一方を。そうしなきゃいけないと思うから」
「…そうか」
「もし、私が人類を選んだら…その時は、私を殺すのはあなたの役目だと思う。ごめんね」
ライナーは呻きともため息とも取れる声を漏らす。
「ライナーは相手にのめり込むきらいがあるから。だからどうって、私には言えないけど…でも」
ライナーは目尻を緩めてルーラの肩を二度叩いた。
「言いたいことはわかった。だが、お前はあいつの心配だけしてればいいさ」
ルーラはライナーの親指が示す先を目で追う。
ベルトルトが歩いてきた。
上官方はどうだ、と言いながらライナーはその場を離れていく。
「先輩たち、どう?」
「さすが調査兵だ。よく戦っているよ」
よく戦っている、とルーラは口の中で反芻する。
今二人が巨人になって戦ってくれれば、みんな助かるのに。
瞬間的に頭がカッとなる。
考えても栓のないことと強引に振り払った。
「ライナーと何話してたの」
「大したことじゃないよ。腕、大丈夫、とか」
「…そう」
ルーラは小さく笑った。
「なに?妬いてるの?」
乾いた笑いだと、自分でも思った。
ベルトルトは静かな視線を注ぐ。
「ルーラ」
「ん?」
「僕らに同情しなくていい」
「え」
すっと体温が下がった。
「ルーラが迷っているなら、なおさらだ」
拒絶されたと、咄嗟に思った。
彼らを理解することを拒まれた。
自分が、彼らを選べないから。
暗に非難されたようにも感じた。
胸に鋭い痛みが走る。
「…でも、一緒に居させてくれるんでしょう?」
「一緒に居たいから、互いに深く踏み込むべきじゃないんだよ」
彼との間に透明な壁が見えた。
思わず声が上ずる。
「嫌だよそんなの!」
「ルーラ」
ルーラは口を押える。
ライナーがチラリとこちらを振り返った。
「難しいことばっかり言わないでよ。だって、二人とも傍にいるのに…」
ベルトルトは視線を床に落とす。
「ライナーを見ていればわかるはずだ」
ルーラはハッとした。
人類に肩入れして、少しずつバランスを失っているライナー。
ベルトルトは、彼にルーラを重ねているのだ。
ああ、私の心配をしているんだと気付いて、涙腺が緩んだ。
「…でも…そんなこと言われたって…」
ルーラは俯く。
ベルトルトはルーラの頬を手で拭った。
「ごめん…泣かせたいわけじゃないんだ…」
「わかってる…」
(20131028)
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