at the time of choice

23.please tell me who you are


場が凍りついてから、どのくらいの時間が経っただろうか。

ずいぶん長い間、誰も動かず、音を立てなかった。

沈黙が鼓膜を揺らし、低い耳鳴りを呼ぶ。

痛いな、と頭の片隅で思った。

この長い空白は何を意味しているのだろうか。

彼らから返答を聞くまでは早急な結論は出さないことにしている。

だが、いつまで待っても、当惑の逆質問もなければ、怒りの抗議もなく、笑いも起こらない。

この沈黙が答えなのではないかと冷静な自分が遠くから呟いた。



やがて沈黙に耐えられなくなったのはルーラだった。

「何も答えてくれないの?」

「何故、その質問を僕たちにするんだ?」

静かな口調で質問を返したのはベルトルトだ。

「知ってるんじゃないかと、思ったから」

「どうして、そう思ったの」

根拠は、無いに等しかった。

敵が兵団内部に潜伏しているというところまではある程度信憑性がある。

兵団の動きを把握しているかのようなタイミングで女型が出現したこと、敵地への侵入は戦術の基本であることからも納得がいく。

それでも、あくまで状況証拠だ。

だが、他ならぬ団長とアルミンがそれを確信している。

それは何にも勝る裏付けであるように思われた。

が、それ以降はルーラの推論だった。

団長は、何らかの証拠やそれに類するものから104期生の中に巨人がいると疑っているのではないだろうか。

だからあの小屋に一同を集め、監視させていたのではないか。

そこから抜け出そうと言い出したライナーは少しおかしかったのではないか。

何か重要な意図があったのではないか。

例えば、エレンを攫うというような。

いや、これでは推論とも言えない。

ただの連想ゲームだ。

二人を巨人と結びつけた理由など、直感としか言いようがなかった。



――あの時ライナーは、なぜあんなことを言ったのだ。



「特に理由はないの。私が、そう思っただけ」

二人は素早く視線を交わした。

ルーラへの対応を相談するような視線だ。

「ずっと気になってる言葉があって」

それは疑惑が芽生えたときからずっと、頭の中を回っている。

「ねえベルトルト。私、ずっと、あなたが抱えてる闇は何なんだろうって思ってた。癒してあげたいって…思ってた」

共に生きたいと、思っていた。

「ウォール・マリアを奪還したいって思ってたよ。一緒に…あなたの故郷に行きたかったから…!」

ベルトルトは頬を叩かれたような顔をした。

「ねえライナー。あの時どうしてあんなこと言ったの?『もし仮に、ベルトルトが巨人だったらどうするんだ』って。あれはどういう意味?」

ライナーの口が僅かに開いた。

しかし、めいっぱい顰められた双眸は、無言のまま逸れる。

「あなたたちの故郷って…何処にあるの?」



再び重い沈黙が下りた。



今度、最初に口を開いたのはライナーだった。

「あの時、お前は『わからない』と言ったな。その時の感情に聞いてみないとわからないと。今はどうだ?俺がお前に今、同じ質問をしたら、お前はなんて答える?もし、仮にだ、ベルトルトが巨人だったとしたら、お前はどうする?」

ルーラの胸が引きつった。

鼓動が歪んだ音を立て始めた。



(20131021)


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