at the time of choice

22.please don't deceive it


ライナーは表情を和らげた。

安堵が顔に滲んでいる。

「なんだ?話ってのはこれか?」

「うん。あといくつか質問が」

「質問?」

「ねえ、どうしてあの時、助けてくれたの?」

ルーラはベルトルトの方を向いた。

あの時、ルーラの手を引いたのはベルトルトだった。

「君のおじさんの声が聞こえたんだ」

「お父さんの…声」

父は自分を突き飛ばした直後、姿を消した。

ルーラにはもうあの時何が起こったのかわかっている。

巨人に捕まりそうになった自分を庇って、身代りになったのだ。

そして、巨人に捕えられながらなお、叫んだ。

――ルーラ!逃げろ!!誰か!!娘を…!

その悲鳴をベルトルトが拾ってくれたのだ。

「そう、だったんだな」

ライナーが呟く。

この話を聞くのは彼も初めてのようだ。

「気が付いたら君の手を掴んでいた。あとは無我夢中だった」

「そっか…お父さんが…」

「自分を犠牲にして、お前を守ったんだな」

「…ありがとう。助けてくれて。お父さんの思いを生かしてくれて」

ライナーとベルトルトはハッと肩を震わせた。

二人の視線はしばらくの間ルーラに留まり、やがて虚空を泳ぐ。

「思いを…生かす、か…」

ここではないどこか遠い場所、遠い未来、遠い過去、そんなような場所を映しているように感じられた。

「今度は、助けてくれないの?」

ポツリと落とされたルーラの言葉の意味が、二人にはわからないようだった。

こんな時、先に口を開くのはライナーの役目だ。

「助ける?何をだ?」

「巨人の謎が解ければ、人類は大きく前進できる。そうだよね」

「ああ、そうだが」

「コニーの村で何が起こったのか、あなたたちは知ってるんでしょ」

ライナーは血相を変えて腰を浮かせた。

そして自身の反応の落ち度に気付き、その場で静止する。

ベルトルトは無表情のままルーラを見据えていた。

ルーラは構わず続ける。

「どうしてみんなに伝えないの?コニーを心配してるの?」

ライナーは動かない。

口を開いたのはベルトルトだった。

「そうだよ。僕らは何かを知っているわけじゃない。ただ、推察しただけだ。コニーが口にしようとしたことは、コニー自身にとってあまりに酷なことだ。だから、落ち着くまで待った方がいいと思ったんだ。それで止めた。そうだよね、ライナー」

「あ…ああ、その通りだ」

「そうだとしても、上官には報告すべきだよね。それに、あくまで推論なのに、あそこまで必死になって止めようとするなんて不自然だよ。あれじゃまるで、コニーの心配をしてるっていうより、口止めしようとしてるみたい」

「それは僕らじゃなくてユミルに言えることじゃないのかい?コニーの話を強引に中断させたのはユミルだ」

「そう。確かにユミルもおかしかった。彼女も何か知ってるんだ。あなたたち、一体何を隠してるの」

「だから、僕たちは何も隠してないって」

「質問を変える」

ルーラはベルトルトとライナーを睨み据える。

いや、睨み据えたつもりだったがおそらく失敗している。

多分、自分は今、泣きそうな顔をしているに違いない。

「『超大型』と『鎧』の巨人の正体をあなたたちは知ってる?」



(20131020)


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