at the time of choice

19.please stop this noise


松明を灯すために垂木に布を巻き付けたものを人数分強用意する。

準備が整うと出発のため馬に乗った。

途中、あの巨人が気になり、振り返る。

少し後ろでコニーとライナーも立ち止まっていた。



ルーラは瞠目した。

突然、二人を見下ろしていた巨人が口を開いたのだ。



『オ…アエリ…』



身体を電流が駆け抜けた。

発音は不明瞭だったが、今、確かに発声した。

意味のある言語を。

しかも、今の単語は…今の言葉は…。

コニーも激しく動揺している。

「は…?今……」

「オイ!コニー!急げ!ゲルガー達に遅れちまうぞ!」

そんなコニーをライナーが無理矢理引き戻した。

「ライナー…聞いたか!?今あいつが――」

「俺には何も聞こえてない!とにかく喋ってないで今は…任務に集中しろ!」

それでもコニーの混乱は収まらない。

それはルーラも同じだった。

「なんか…あいつさぁ…ありえないんだけど…なんか母ちゃんに…」

「コニー!お前は今がどんな状況かわかってんのか!?」

ライナーはあくまでコニーを急かす。

それは必死になって意識を逸らそうとしているように見えた。

「ルーラ…」

全身を硬直させるルーラの背中に、決して強くはないはずのベルトルトの声が突き刺さった。

ルーラは弾けるように振り返る。

心臓が早鐘のように鳴った。

「ベルトルト…あなたは今…何か聞こえた…?」

ベルトルトの顔には表情がなかった。

にもかかわらず、ルーラには彼の動揺が手に取るように伝わってきた。

「…いや、何も」

「…そう」

どうせ嘘をつくなら、もっと上手についてほしかった。

ルーラが嘘だと思っていることをおそらく彼も察しているだろう。

「…行こう。出発だ」

「…うん」

一行は村を後にした。

不可解な巨人と、大きな謎をその場に残し、大きなわだかまりを共に連れて。



ルーラはベルトルトにそうとわかるように彼の顔を見つめた。

が、彼は決して目を合わせようとしなかった。

諦めてコニーに視線を移す。

彼は必死に、兵士としての仕事に集中しようと努めているようだった。

そのひたむきさが痛々しい。

――ありえないんだけど…なんか母ちゃんに…

じわりと眉根に力が加わっていく。

『おかえり』

あの巨人は確かにそう言った。

それが示す可能性が彼の頭を掠めたはずだ。

多分彼と同じ考えが、ルーラの頭をも過った。

一体何がどうなっているというのだ。

探るような険しい視線をコニーに送るライナーが視界に入った。



(20131017)


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