at the time of choice

18.please don't give up your hope


コニーの村に着いた時、そこは既に巨人に踏み荒らされた後だった。

声を嗄らしながら走り回るコニーを気にしながら、村の様子を見て回る。

どこもかしこも家屋が倒壊し、木々がなぎ倒されていた。

壊滅と言って差し支えのない状態だ。

絶望的な光景に言葉を失い、焦燥感と共にコニーの元へ駆ける。

彼の心情は想像を絶した。



それに、気になるのはあの巨人だ。



村に入ってすぐ、一行は、倒壊した一軒家に圧し掛かるようにして身を横たえる巨人を一体発見した。

非常に不可解なのが、その巨人の手足が体に不釣り合いな大きさしかなかったことだ。

まるで粘土細工のための粘土が足りなくなって、残りで何とか手足を作ってくっつけた、そんな感じだ。

これでは到底この巨体を支えることはできないし、実際、巨人は身動きが取れないようだった。

ならば、この巨人は一体どうやってここまで来たというのだ。

巨人たちが協力して、この巨人をここまで背負ってきたとでもいうのか。

それだけではない。

躯体についても、皮と骨ばかりで、腹部など骨が飛び出している。

これではまるで巨人のでき損ないだ。

「コニー!生存者はいたか!?」

ライナーの声で現実に引き戻された。

ルーラもコニーに駆け寄っていく。

コニーは例の巨人の前で呆然と立ち尽くしていた。

その巨人が鎮座している家屋こそ、コニーの生家だという。

「いない」

返答には抑揚がなかった。

乾いた砂のような声は、外に放された途端、風に攫われていく。

「いねぇよ…もう…おしまいだ…どこにも…ねぇんだよ」

コニーは泣いていた。

ルーラは奥歯を噛みしめる。

「俺の故郷はもうどこにも…なくなっちまった…」

ライナーは固く目を閉じ、口を引き結んだ。

コニーの痛みを自分の痛みのように感じているに違いない。

しかし、だからこそ掛ける言葉は見つからない。

ライナーの感情は、コニーの肩に置かれた手によって伝えられただろう。

二人の背中を見ていたら、ルーラも泣きたくなってきた。



「オイ…なんか妙だぞ」

南班を率いるゲルガーがルーラたちの元へやってきた。

一同が集まる。

「誰か…死体を見たか?」

ルーラは目を見開いた。

そういえば、コニーの村の有り様に動揺して気付かなかった。

言われてみればルーラは死体を一度も発見しなかったし、血痕さえ見ていない。

他のメンバーも同様のようだった。

ルーラは一つの希望に飛び付いた。

「逃げたんだよ!コニー!村の人たちは無事に逃げたんだ!じゃなきゃ、死体どころか血痕までないなんて、そんなことあり得ないよ!」

「ルーラ…」

「ね!ベルトルトもそう思うでしょ!?」

「そうか…!そう…だよな!?」

「そうだよ!みんなもうウォール・シーナに入ったんだよ。生きて壁の向こうに帰れば、きっと家族と会えるよ!」

「お、おう!」

コニーの笑顔を見て安心した。

だから余計だろうか、次に視界に入ったベルトルトとライナーの表情は、ルーラの心を氷点下まで冷やした。

ああ、見たくなかった。

こんな顔。

それぞれがどこか別の場所を見ている。

しかし、浮かんでいる表情は同じだった。

鈍い光を宿した瞳、意味ありげに結ばれた口。

そこに映るのは密かな焦り、いや、警戒だろうか。

外へ漏れ出そうとするものを必死に内側に抑え込んでいる、そんな風にも見えた。

ルーラは直感で悟った。

この二人は、この村に起こった真実を知っている。

そしてあくまでそれを黙秘するつもりだ、と。

ざらり、と胸に不快な感触がある。

あなたたちは誰なの?

何を隠してるの?

ざらり。

心の底を撫でる暗い疑惑だ。



不信感が色濃く、重くなる程、同時に、降り積もってゆく幾つもの場面がある。



遠巻きに見ていた彼の大きな背中。

話し掛けるためにすごく努力した。


書庫で本を読んでいる彼。

俯き加減の彼のうなじが艶めかしくて、ちょっとドキドキした。


くだらない理由でした喧嘩。

彼の弱り切った顔が可愛くて、もうとっくに許しているのに、まだ怒っているふりをして見せた。


ほんのたまに咲く満面の笑み。

あの笑顔を見ると、胸が弾けるんじゃないかと心配になるくらい嬉しかった。



縋るような恋心もまた、一際鋭い刃となって胸を刺した。



(20131016)


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