17.please let me believe you
ルーラの思考は唐突に中断された。
サシャが突然騒ぎ出したからだ。
「足音みたいな地鳴りが聞こえます!!」
「何言ってんだサシャ?ここに巨人がいるって言いたいんなら、そりゃ…ウォール・ローゼが破壊されたってことだぞ?」
「本当です!確かに足音が!」
「全員いるか?」
窓から上官の一人であるナナバが入ってきた。
険しい表情を浮かべている。
彼女がもたらしたのは、巨人襲来の一報であった。
500m南方より巨人多数接近。
至急付近の民家や集落に知らせ、避難させよ。
命を受け、一同は一斉に馬に乗った。
巨人がウォール・ローゼ内に侵入した?
壁が破壊されたということか。
また知性を有する巨人が先導したのだろうか。
だとするとその巨人は104期生ではありえない。
杞憂だったということだ。
ルーラは危機的状況ながらも安堵していた。
何を考えていたんだ、私は。
空笑いを地面に投げ捨てる。
「104期と武装兵で構成した班を東西南北に分ける!戦闘は可能な限り回避し、情報の拡散に努めよ!誰かこの地域に詳しい者はいるか!?」
サシャが挙手する。
「は、はい!北の森に故郷があります!その辺りの地形は知ってます!あとコニーも…」
サシャがコニーを促す。
が、コニーは一点を見つめたまま放心していた。
「コニー!?」
「南に俺の村があります…。巨人が…来た方向に……」
ルーラは息を止める。
「近くの村を案内できます。その後…俺の村に行かせてください。そりゃ…もう行ったところで…もう…無駄でしょうけど…けど、行かなきゃ、いけないんです…」
上官のミケはあえてビジネスライクに応じる。
「わかった。南班の案内は任せたぞ」
ライナーがコニーに寄った。
「コニー、俺も行く」
「多分…南が一番危険だ。巨人がいっぱいいる…」
「何言ってんだ。さっき抜け出しに加担すると言っただろ」
ほら。
ライナーはこういう人だ。
仲間のために危険を顧みず、自ら体を張って立ち向かっていける人。
本当に、どうかしていたんだ。
ライナーはベルトルトを振り返った。
「お前はどうする?ベルトルト。強いてるわけじゃない…だが、人数が必要だ」
ベルトルトは一瞬、物言いたげにライナーを見た。
そのようにルーラには思えた。
が、すぐに追随の意志を示す。
「もちろん、僕も行くよ」
ルーラもベルトルトの後につく。
ベルトルトは顔色を変えてルーラを振り返った。
「ルーラ!」
「私も行く。ライナーも言ったでしょ。南は一人でも多い方がいい」
ベルトルトは勢いよく口を開いた。
が、そのままの表情で停止する。
言葉は外へ放たれることなく、彼の喉の奥へと落ちた。
きつく口を結び、彼は前へ向き直った。
「離散せよ!!」
合図と同時に、四班は四方に散った。
目を離してはいけない、と思った。
なぜ?
胸騒ぎが、止まないからだ。
104期生が全員揃っている時に巨人の襲撃は起きたのに?
ライナーの仲間への思いを見たばかりなのに?
自分を心配するベルトルトを見たばかりなのに?
それなのに後は、何が信じられないというのだ。
――知性を有する巨人が三体だけとは限らない。
――コニーについていくのは、他に思惑があるのでは?
…そこまでして、彼らを疑いたいのか、私は。
違う。
信じたいから確かめるんだ。
はっきりさせたいから疑うんだ。
ルーラはベルトルトの後ろ姿を眺める。
大きな背中。
あったかい背中。
ルーラが大好きな背中だ。
自分の視線に応えるかのように、ベルトルトが振り向く。
「ルーラ、あまり遅れないで。隣へ」
ルーラは軽く手綱を振るう。
ベルトルトの横に並んだ。
面長の横顔にチラリと視線を送る。
彼と目が合った。
黒目がちの小さな双眸。
この瞳が様々な表情を作り出し、ルーラの心を揺さぶるのだ。
今は案じるような物憂げな表情を浮かべている。
それでも彼が何も言わないのは、彼の言葉が、兵士としてのルーラを侮辱するものだと心得ているからだ。
…多分、そうだ。
…なんにせよ、この窮地を乗り切らなければ。
ルーラはベルトルトに小さく笑いかけた。
(20131015)
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