14.please tell me your true motive
壁外調査当日。
ルーラは馬に乗り、門を睨んでいた。
調査兵団入団から一カ月、あまりに早急と囁かれていた、新兵にとって初の壁外調査が始まろうとしていた。
ルーラは静かな闘志を胸の内に燃やす。
きっと自分の役割を全うして、この調査の成功に貢献するんだ。
そして生きて帰ってくる。
必ず。
この調査を出発点に、人類はウォール・マリアの奪還を目指す。
一日でも早く、ウォール・マリアを人類の手に取り戻すのだ。
それが今のルーラの原動力だった。
あの日、あの言葉を聞いた時から。
――僕と一緒に…故郷に来てくれないか。
彼の心の奥底の本音を聞いた。
あれはきっと、殻を被らない、彼の心の一番柔らかな蕾だ。
彼が大切に大切に包んでしまっていた想いだ。
それがあの時、思いがけず目の前に差し出された。
自分に直接向けられた言葉ではない。
ため息を落とすように呟かれた独り言だ。
あの時彼は自分の意識があることを知らなかった。
だからこそ言える。
あれが彼の本当の願いなのだと。
その場で泣き出してしまいそうだった。
でも必死に我慢した。
自分に聞かれていたことに気付けば、きっと急いでその想いをしまい込んでしまうから。
だから密かに決意したのだ。
私は、一緒に行く。
ベルトルトと一緒に、彼の故郷に行く。
彼の抱える闇が何だったとしても、もう構わない。
私は、これからの時間をこれからの彼と生きていく。
彼の闇だって、これから癒してみせる。
だから、そのためにも、取り戻さなければならないのだ。
――僕とライナーは、ウォール・マリア南東の山奥の村出身なんだ。
彼の故郷はウォール・マリアにあるのだから。
しかし、ルーラの想いをよそに、壁外調査は開始早々混乱した。
右翼後方より、知性を有した女型の巨人の襲撃を受けたのだ。
陣形への侵入を阻止しようとした班長や先輩は、女型の巨人の想定外のポテンシャルの高さの前に、成すすべもなく命を落とした。
隊列は乱れたまま進路を大きく逸れ、樹高80mを超える巨大樹の森に突き当たった。
当惑する新兵たちに一切の説明はなされず、抜刀及び樹上待機が命じられる。
巨人を一切森の中に入れるな。
上官の命令の意図は全くわからなかった。
この事態が想定の範囲内にあるのか、非常事態なのかすらわからない。
しかも、途中から森の中で激しい爆音が響くようになった。
いったい何が起こっている。
察しがついていたのは、おそらくアルミンとジャンくらいだったろう。
結局、何もかも事情を伏せられたまま、やっとの思いで壁内に帰ってきた。
そして今、また何の説明もないままに、新兵はウォール・ローゼの小さな小屋に集められている。
今回の遠征で、私たちはウォール・マリア奪還に一歩でも近づいたのだろうか。
ルーラはため息を落とす。
「どうしたんですかルーラ。ため息なんかついて」
気付くとサシャがこちらを覗き込んでいた。
「ううん。エレン、大丈夫かなと思って」
今回の調査の真の目的は、知性を有する巨人の捕獲であったのだろうとアルミンとジャンが話していた。
しかし作戦は失敗。
女型を逃した上、武器を多大に消費し、多くの仲間を失うこととなった。
その結果、調査兵団は危機的状況に追い込まれていた。
責任の所在を問うため、エルヴィン団長を含む幹部が王都に召集され、エレンの中央への引き渡しが決定したのだ。
今ここに、アルミンとジャンはいない。
エレンとミカサと共に作戦に参加中だった。
エレンを逃がす。
メンバーを考えても、多分そういうことだとルーラは思っていた。
このままエレンが中央に引き渡されれば、彼の命はないだろう。
それは人類にとって大きな痛手であり、必ず阻止しなければならない事態だった。
もちろんそれ以上に、彼に死んでほしくはない。
少数精鋭が鉄則とはいえ、ここでただ待つことしかできないことに歯がゆさを感じずにはいられなかった。
「大丈夫ですよ。団長たちがきっと何とかしてくれますから」
「うん。そうだよね」
ルーラは両手を目の前で組んだ。
せっかく生きて戻ってきたのに、人間に殺されるなんて、バカなことがあっていいはずがないんだ。
(20131012)
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