at the time of choice

12.please listen to my wish


一日の訓練が終了した。

夕食を終えると、後は自由時間だ。

ライナーは再び医務室へ向かった。

昼間のやり取りの後では顔を合わせづらかったが、それでも気になったのだ。

先ほど夕食を一緒に食べると出ていったサシャやクリスタたちが帰ってきていた。

眠ったようだと話していたので、今は人もはけているだろう。

ドアノブに手を掛け、音を立てないようにそっと回す。

様子だけ覗いて帰るつもりだった。

隙間からベッドが見えた。

同時に息を飲む。

ベッドの側には人影があった。

ベルトルトだ。



クリスタたちの言葉の通り、ルーラは眠っているようだ。

そんな彼女の髪をベルトルトは労るように梳いている。

手は幾度もルーラの頭を行き来し、時折、迷うように宙を泳いだ。

その表情は憂いを帯び、しかし慈愛に満ちていた。

彼女に知られなければいいと、自分に言い聞かせてここに来たのだろう。

ライナーは胸が塞いでいくのを感じた。

小さく息を吐いて、戸を閉めようとする。

その時、声が聞こえた。

「僕と一緒に…故郷に来てくれないか」

ライナーは驚いてベッドを注視する。

しかし、彼女の目は閉じたままだった。

ベルトルトの視線は、静かに眠り続けるルーラに一心に注がれている。

ライナーは今度こそゆっくりと戸を閉める。

壁に身を持たせ、長いため息をついた。

お前そりゃ、本人が起きてる時に言わなきゃ、意味ねえんじゃねーのか。



ライナーは医務室の前から動かなかった。

ベルトルトが出てくるまで、人払いをしてやろうと思ったのだ。

幸い、誰かがやってくることもなく、しばらくすると戸が開いた。

ライナーの姿を認めたベルトルトは一瞬顔を強張らせ、目を逸らす。

「ライナー…いつから…」

「少し前からだ」

「ライナー…僕は…」

「なあベルトルト。俺は余計なことをしたか」

ベルトルトは一瞬動きを止め、首を振った。

「いや。ライナーは正しいよ」

同じことをルーラにも言われた。

だが、正しいことは必ずしも世界を上手く回さない。

その一例がこれだという気がした。



翌日、彼女は兵団のカリキュラムに復帰した。

顔色はいいとは言えなかったが、瞳には力が戻ったようだ。

その表情には、昨日の涙の名残は見られない。

ライナーはひとまず安堵した。

が、その実はわからない。

ただ無理をしているだけなのかもしれないし、あの涙を契機にふっ切ったのかもしれなかった。

ライナーの心中を他所に、彼女は黙々と講義や訓練をこなし、壁外調査前日までにはすっかり遅れを取り戻していた。



(20131010)


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