at the time of choice

00.prologue


――ルーラッ!

父親に突き飛ばされ、ルーラはもんどり打って地面に倒れ込んだ。

父の姿を探して力の加わった方向を向くが、そこには誰もいない。

代わりに、遥か頭上から父の叫び声が聞こえてきた。

――ルーラ!逃げろ!!誰か!!娘を…!

声が途切れた。

そして雨が降ってきた。

紅い、紅い雨が。

振り仰ぐと、人間と呼ぶにはあまりに大きな顔が、般若の表情でこちらを見下ろしていた。

口元には、紅い液体が涎のように滴っている。

ルーラは動けなかった。

周囲の喧騒が遠くに聞こえた。

ぼんやりとした頭で、いなくなってしまった父を探していた。

突然、手を強く引かれた。

勢いで体が持ち上がる。

――走るんだ!

叫びながら腕を引いて走っていくのは背の高い男の子だった。

知らない子だ。

なぜこの子が自分の腕を引いているのかわからなかった。

けれど、この時はわからないことがあまりにいっぺんに起きていたので、大して気にならなかった。

――ベルトルト!何してる!こっちだ!

金髪の男の子の声に反応して、手を引く男の子が進路を変えた。

だから、この男の子がベルトルトという名前なのだと、それだけはわかった。

わからないことだらけの一日で唯一わかったことだったから、ルーラはこの名前をよく覚えていた。



(20130929)


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