04.please don't cry
翌日、ルーラはライナーを見つけて呼び止めた。
ライナーは軽く手を上げると、小走りでこちらにやってくる。
「どうした?何か用か」
「うん。用ってほどでもないんだけどさ、昨日ベルトルト何かあった?」
何か?と首を捻ってルーラを見たライナーは、一瞬目を見開いて大きく咳払いした。
「何かあったかって、そりゃあっただろうな。でも、もう少し場所は気を付けさせた方がいいぞ」
ライナーは自分の首元を指し示す。
ルーラが自身の首元の示された場所を見ると、そこは赤くうっ血していた。
ルーラは反射的に手で押さえる。
「あ、うわっ…。ごめん、ありがと」
「いや」
「でも違うの。昨日、少しおかしかったんだ」
「おかしかった?」
「うん。なんか、すごく追い詰められてる感じだった。時々あるんだ、そういうこと。ね、何か知らない?」
ライナーは顎に手を当てて黙りこんだ。
「昨日は…あいつは相変わらず寝相が絶好調で…それから、うなされてたな。夢見が悪かったのかもしれん」
「うなされてた…何に?」
「さあな」
ルーラは小さくため息をついた。
「何か隠してるみたい」
ライナーの顔が僅かに引きつった。
「俺は別に何も隠してねーぞ」
「違うよ、ベルトルトが。隠してるっていうよりも、言えない何かがあるみたい。それが原因で、時々ひどく不安定になる」
ルーラはライナーの顔を覗き込んだ。
「ねえ、ライナー。ライナーはその『何か』を…」
ライナーの表情を観察する。
ライナーは目に見えて感情を表すことはなかった。
が、よくよく見ると眉間に皺が寄り、目つきが鋭くなっている。
それはほんの小さな変化だったが、ルーラにとっては確実な変化だった。
「…知ってるんだね」
ライナーは狼狽の色を浮かべる。
「い、いや…俺は」
「いいよ。どうせ教えてくれないんでしょ」
ルーラは俯いた。
「拒絶しないでって、言ってた。この先何があっても、拒絶しないでくれって」
ライナーはルーラを一瞥する。
が、すぐに前に向き直った。
眩しい光を見据えるような視線だった。
そんなライナーを横目に見ながら、ルーラは続ける。
「しないよ。そんなこと。でも、彼は不安で仕方ないみたい。信用されてないっていうのとは、少し違う気がするんだ。もっと、深いところに、すごく大きな闇があって…それが彼を蝕んでるみたいな…そんな気がする」
そして、ルーラがそれを癒すことは決してできない。
そんな悲しい予感があった。
「私には、彼を救えない、のかな」
「そんなことはない。お前が、あいつの救いなんだ。それは確かだ」
「でも、彼の闇を消すことは、できない」
否定の言葉はない。
胸がシクシクと痛んだ。
ライナーがこちらを振り向いてギョッとした。
それから困ったように眉を落とす。
「頼むから泣かんでくれ。俺が泣かせてるように見える」
「ごめん」
ライナーは頭を掻いた。
(20131002)
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