at the time of choice | ナノ

01.please remember me


――あの時からずっと、あなたを見てたよ。




僕が必ず君を守るから。

抱き合うハンナとフランツを見て、もしかしたらこれが最後かもしれないんだと思った。

何で今日なんだと崩れ落ちるジャンの隣に、彼の姿を見つけた。

ルーラは迷わず彼の袖の裾を掴んだ。

「ルーラ?」

「ベルトルト、少しだけ時間ちょうだい」

有無を言わさず柱の陰に引っ張っていく。

周囲には怒声や悲鳴が飛び交い、殺伐とした雰囲気が肌に刺さる。

怒り、闘志、恐怖…様々な感情が刃を交え、剣戟音を鳴らしていた。

訓練兵たちが上官の指揮の元、硬い表情で駆け抜けていく。

「どうしたの?僕たちももう行かないと…」

「あのね、これが最後かもしれないから」

――だから伝えておきたいんだ。

「だから、もう少し屈んで」

ベルトルトは言われるままに腰を屈めた。

ルーラはベルトルトの顎に親指と人差し指を添えて固定する。

そして、勢いよく彼の唇に自分の唇を押しつけた。

ベルトルトは目を丸くして固まっている。

ルーラはしばらく彼の唇の温度を感じていた。

もう少し。

彼の感触を覚えていられるように。

やがてゆっくりと彼を解放する。

「ベルトルトが私たち同期と一線置こうとしてたのは知ってる」

いつも一歩離れて、みんなの様子を外から見ていた。

自分は関係ないんだと言い聞かせているように見えた。

「でもね。みんなにつられて楽しそうに笑ってるあなたも知ってる。その後、何かに気付いたみたいに表情を固くするあなたも」

ベルトルトは黙ってルーラの話を聞いている。

「私、ずっと、それが何でだろうなって思ってたんだ。でもいいの。今はそんなこと」

ルーラの名を叫ぶ声が聞こえた。

各班が集結しつつある。

もう行かなければ。

「だってこれが最後かもしれないから」

――生きているあなたを見る、最後。生きている私を見せる、最後。

「だから私、後悔したくないから…」

「ルーラ!どこにいるんだ!早くしろ!!」

「私、ベルトルトが好き!もし…もしもう一度生きて会えたら…」

「ルーラ・クローゼ!!」

ルーラは班長の声に急かされるように走り出した。

もしもう一度生きて会えたら、返事を聞かせてほしい。

最後の台詞は言えなかった。



(20130929)


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