20.please subdue this confusion
巨人がウォール・ローゼに入り込んできたにもかかわらず、壁の破壊は確認できなかった。
夜半、松明の明かりだけが頼りの探索であったため、見落としがなかったと断言はできない。
しかし、南班と西班で東西から南に向かって壁伝いに走ってきたのだ。
巨人が侵入してくるほどの大穴を見落としたとも考えにくかった。
ともかく、疲労が極限に達していた一同は、これ以上の探索は危険ばかりが勝って非効率であると判断し、近くの古城『ウトガルド城』の小塔にて一夜を明かすことにした。
西班だったユミル、クリスタと合流し、無事を喜び合う。
外の見張りは上官方が交代で行ってくれるらしく、新兵には休息が言い渡された。
見張り以外のメンバーは、状況報告を兼ねた会話をポツリポツリと交わしていた。
「確かに巨人が少ないようだ」
「私たちが巨人を見たのは、最初に発見した時だけだ…」
上官の話を黙って聞いていたユミルが口を開いた。
「コニー…お前の村はどうだった」
「壊滅した。巨人に…踏み潰された後だった…」
事情を知らなかったユミルとクリスタが息を飲む。
「…そうか…そりゃあ」
「でも誰も食われてない。皆上手く逃げたみたいで、それだけは…よかったんだけど」
ユミルは微妙な表情を浮かべた。
怪訝そうな顔に見えるが、何かを疑っているような顔にも見える。
「村は壊滅したって言わなかったか?」
「家とかが壊されたけど、村の人に被害はなかったんだ。もし食われてたら、その…血とかの後が残るもんだろ?それが無いってことは…つまりそういうことだろ?な、ルーラ?」
「う、うん…」
「ただ…ずっと気になっているのが…俺の家にいた巨人だ。自力じゃ動けねぇ体でなぜか俺の家で寝てやがった…。そんでよぉ…そいつが何だか…母ちゃんに似てたんだ…。ありゃ一体…」
「コニー…まだ言ってんのか。お前は…」
またライナーがコニーを制した。
どうしてもこの話をさせたくないらしい。
「でも、ライナー…あの巨人、あの時…」
ルーラ、と止めに入ったベルトルトの声はユミルの豪快な笑い声にかき消された。
「バッカじゃねぇーの!お前の母ちゃん…巨人だったのかよコニー!?じゃあ…何でお前はチビなんだよ!?オイ!?」
ルーラは面喰った。
普段、クリスタ以外に興味がなさそうにしているユミルにしては、反応が尋常でない気がしたのだ。
周囲も圧倒されたようにユミルを見つめている。
そんな視線に気付いてか否か、ユミルはまくし立てるように続けた。
「えぇ?コニー…!?お前そりゃあ…辻褄が合わねぇじゃねぇか!!お前バカだって知ってたけど…こりゃあ逆に、天才なんじゃねぇか!?なぁ!?」
いや、やはり普通の反応ではない。ユミルは、いや、ユミル「も」、意図的にこの話題から意識を逸らそうとしている。
けれど、何故ユミルが。
まさか、ユミルまでもが。
ルーラは顔を歪める。
「までも」って、なによ。
これじゃ二人が黒だと決めつけているみたいじゃない。
もう本当に、勘弁してほしい。
だから決めた。
直接問い質す。
(20131019)
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