13.please don't wake up
壁外調査を明日に控えた午後、兵士たちには休息が与えられた。
身体を休める者、企画紙を見直す者、家族に会いに行く者と様々だ。
ライナーは立体機動装置の調整を行い、後はゆっくり過ごすつもりだった。
ベルトルトは、天気がいいので外で本でも読むと言っていた。
装置の整備を終え、敷地内の草地を通りがかると、そこに寝転んでいるベルトルトの姿が目に入った。
通常では考え難い滑稽な体勢になっていることから、彼が深い眠りに落ちていることが分かる。
ライナーは苦笑して一歩踏み出した。
が、その足を即座に引っ込める。
近くにあった木陰に身を隠した。
顔だけ出して静かに様子を窺う。
ベルトルトに歩み寄る人影があった。
ルーラだった。
ルーラはゆっくりとした足取りでベルトルトに近寄っていく。
そっと、そっと。
近づくことを許されるか、確かめているかのように。
それはまるで、繊細で臆病な小動物に向き合うような歩調だった。
ルーラはベルトルトの横にしゃがみこむ。
そうして、しばらく黙って彼を眺めていた。
次第に表情が和らいでいく。
ベルトルトが大きな動作で寝返りを打った。
ルーラの肩が笑みと共に揺れる。
彼女の指がベルトルトの頬に触れた。
寝ている彼に穏やかな眼差しを落とす。
彼女の心情を代弁するつもりなのだろうか、陽射しが二人に降り注いだ。
彼女は眩しそうに目を細める。
そして、次の瞬間、ライナーは息を止めた。
おもむろに額を手で覆う。
何も終わっていない。
今、思い知った。
彼女はそっとベルトルトの額に跪いたのだった。
人の話し声が聞こえてきた。
こちらに近づいてくる。
ライナーは我に返って慌てて声を上げた。
この現場を見られるのは抵抗があるだろう。
「おーい、ベルトルト!」
願わくば、今来たところだと思ってくれ。
ルーラはビクリとこちらを向いてベルトルトから離れようと腰を浮かせる。
しかしその時、再び寝返りを打ったベルトルトがルーラを抱え込んだ。
「わっ!」
ルーラはベルトルトの下敷きになるような形で倒れ込む。
ライナーは駆け寄り、苦笑いを浮かべる。
「大丈夫か」
「ま、まあ…」
「おいベルトルト、起きろ」
後ろから数人こちらにやってきた。
「おーい、何してんだ…って、おい!」
ジャンだ。
コニーとアルミンもいる。
「うおっ!ベルトルトがルーラを組み敷いてるぞ!」
「うわ…ベルトルト寝ちゃってるのか。ルーラ、大丈夫?」
「う、うん…でもできればどかしてもらえると助かる…あいたたたたたた!!ちょっとベルトルト!」
ルーラは突如顔を引きつらせた。
気付くとベルトルトがルーラを力いっぱい締め上げている。
男性陣は慌ててベルトルトを引き剥がしにかかった。
が、無意識のバカ力なのか、ぎっちりと掴んで離さない。
「離れねえな、おい!」
「そんな…四人がかりだぞ」
「ホントに寝てんのかぁ?コイツ」
「いいから早く引き離せ!ルーラが千切れちまうぞ」
「ちょっと!縁起でもないこと言わないでよ!痛い痛い痛い!!」
その後、周囲の騒々しさにようやく目を覚ましたベルトルトがルーラに平謝りするまで、10分もの時間を要した。
(20131011)
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