at the time of choice

09.please let me look ahead


ライナーはベルトルトを思ってこの前のやり取りを伝えたのだ。

ライナーを責めるべきではない。

彼は正しい。

すべて自分の中途半端な気持ちのせいだ。

だからベルトルトは自分と距離を置くことを選んだ。

引き留める権利などない。

だって、自分が彼を選ばなかったのだから。

だからこれは身勝手な感情なのだ。

自分は彼を受け入れられないのに、彼にはそんな自分を受け入れてほしいなんて。

彼なら受け入れてくれるんじゃないか、なんて。

ルーラは首を振る。

大鐘が反響するように頭が痛んだ。

仕方ないんだ。

これは当然の結果だ。

落ち着いて、受け入れよう。

時間は掛かっても、きちんと。

それが出来てからもう一度考えよう。

彼のことを。

自分の気持ちを。

その先に、自分の取るべき行動が見えるだろう。

だからもう涙を止めなくては。

これ以上気持ちが挫けてしまう前に。



実際、調査兵団においてのんびり落ち込んでいる暇などなかった。

毎日、朝から晩まで、長距離索敵陣形の講義と立体機動訓練の繰り返しだ。

食欲はなかったが食べなければ次の日動けないし、眠れなくても無理矢理寝なくては集中力を欠くことになる。

それは、特に訓練中においては、命の危機に直結した。



忙しないのはいいことだ。

余計なことに思いが及ぶ心配がない。

壁外調査という一つの目標に向かって無我夢中で体を動かすのは気持ちがよかった。

日々が充実している。

そう実感できる。

額を伝う汗が、全身をまとう疲労が、ルーラに満足感をもたらしてくれた。

避けようとしても目に入るベルトルトとライナーの姿が時折心を乱したが、それもほんの僅かな時間のことだった。

予定は密に詰まっている。

心に波が立った次の瞬間には訓練だ。

それはこの上なくありがたいことだった。



新兵一行は、入団直後から開始されている長距離索敵陣形の講義を終え、実際の配置の確認とシミュレーションを行うため訓練場へ向かうこととなった。

ルーラの配置先は右翼前方だ。

新兵の主な任務は情報伝達で、索敵班と中央の連携をスムーズに行うことが最大の使命である。

近辺にはアルミンやジャン、そしてライナーが配置されていた。

訓練場に着くと、まずは隊列の確認が行われた。

馬は用いず、陣形の仕組みと陣形全体の中の自分の位置付けを理解する。

それが済んだら今度はいくつかのグループに分かれ、実際に馬を走らせて情報伝達の訓練に移る。

煙弾伝達、口頭伝達、手信号等、数種類の伝達方法を実践するのだ。

ルーラは乗馬しようと鞍に手を掛けた。

「クローゼ」

「はい!」

名を呼ばれて振り返る。

この訓練の統括のネスだった。

「何でしょうか」

「お前は今日は馬に乗るな。誰か、クローゼを医務室に連れて行け」

「は…あの…」

ルーラは当惑した。

特に体調の悪い素振りをした覚えはなかった。

講義もきちんと聞いていたし、陣形確認も滞りなく終了したはずだ。

「何か至らない点がありましたでしょうか。でしたら、以後注意します。ですから…」

「そうではない。それ以前の問題だ。今日馬に乗ったら、お前死ぬぞ」

「え…それはどういう…」

「キルシュタイン、お前だ。行け」

「はいっ!」

「し、しかし…」

「お前のせいで訓練が滞っているんだが?さっさと行け」

「でも…」

壁外調査は目前まで迫っている。

今は大事な時期のはずだ。

その訓練に参加しなくてよいなど、引導を渡されたも同然ではないだろうか。

今や周囲の視線はすべからくルーラに集まっていた。

ルーラは情けなくなって俯く。

「ほら、とりあえず行くぞ」

ジャンがルーラの腕を引いた。

「理由がほしけりゃ後で鏡でも見るんだな。『顔面蒼白』の見本みたいな顔してるぜ」

ルーラはジャンを見上げた。

顔面蒼白。

そんなに自分の顔色は悪いのか。

意識した途端、全身を倦怠感が襲った。

まるで鉛が全身にのしかかっているみたいに重い。

あれ、おかしいな。

そう思っているうちに視界が揺らぐ。

そのまま意識が飛んだ。



(20131007)


- 10/37 -

[bookmark]



back

[ back to top ]

- ナノ -