05.please don't be disappointed in me
「私たち、いつまで一緒にいられるかな」
「…どういう、意味だ?」
「拒絶しないでって、ベルトルトは言ったけど、もし『その時』が来たら、捨てられるのはきっと私の方」
「『その時』?」
「『その時』。それが何か、それがいつかはわからないけど、いつか彼の闇が形を持って現れる。そしたら彼はきっと、悩んで…最後の最後まで悩んで…それでも私を捨てるの」
そして、ルーラはあっさりと彼を失うのだ。
「そんなの…嫌だ…。受け止めたいよ。一緒に…彼と一緒に生きたい。ベルトルトがどんな闇を抱えてたって、どんな人間だっていい。例えば、巨人だって」
ライナーが大きな反応を示した。
顔一杯に驚愕が広がっている。
ルーラは少し驚いて、口を噤んだ。
特に深い意味があっての発言ではなかった。
ただ、彼がどんな立場にあっても受け入れたいと言うことを表現するための例示でしかなかった。
が、よくよく考えれば不謹慎この上ない。
あの豪胆なライナーをここまで動揺させてしまったことに、自身の失態を思い知った。
「あ…えっと…例えばの、話。ごめん、不謹慎だったね」
「い、いや。俺も反応が大げさだった。少し神経質になっているのかもしれん」
「もうすぐ、壁外調査だもんね。ごめん、無神経だった」
二人は黙り込む。
「もし、仮にだ、ベルトルトが巨人だったら、お前はどうするんだ?」
「え……」
ルーラは戸惑った。
改めて問われてみると、そう簡単に返事ができるものではない。
やはり先ほどの発言は、考えなしで浅はかだったと言わざるを得なかった。
もしベルトルトが巨人だったとしたら?
あり得ない。
エレンじゃあるまいし。
あんな特異体質が何人もいてたまるものか。
そうだ、もしエレンのように巨人になれるなら、ベルトルトだって協力してくれるはずだ。
いや、とルーラは首を振る。
今はそういうことを言っているのではない。
ベルトルトが、人類の敵である巨人だったとしたら。
ライナーはそう問いかけているのだ。
ベルトルトは巨人などではない。
そんなことはわかっている。
ライナーはそれでもあえて聞いているのだ。
それくらいの覚悟があるのか、と。
それだけ大きな闇だということだ。
ベルトルトが巨人だったとしたら?
巨人は、人類の敵だ。
家族を奪った仇だ。
仲間を奪った仇だ。
自由を奪った仇だ。
自分の親を殺したかもしれない巨人が、ベルトルトだとしたら?
私は彼を許すだろうか。
私は彼を受け入れるだろうか。
私は彼と一緒に、生きていけるだろうか。
それはあまりにも途方もない話だったので、ルーラは上手く想像することができなかった。
「…わからない…や。ちゃんと考えると、わからない。私は家族を巨人に殺されてるし、仲間だってたくさん死んでる。その時にならないと…その時の感情に聞いてみないと、わからない」
ルーラは項垂れた。
「どんな人間だっていいなんて、嘘だね…」
自分の覚悟があまりに脆いことに、そんなこともわかっていなかったことに、そんなこともわからずに軽々しく受け止めたいなどと口にしたことに、嫌気が差した。
ライナーも視線を逸らし呟く。
「すまん。酷な問いだったな」
ライナーにも落胆された気がして、ルーラはひどく惨めな気持ちになった。
「でも…それでも、私は…」
ルーラの言葉は、それ以上続かなかった。
それ以上続ける資格がないことは、今さっきルーラ自身が証明したばかりだった。
(20131003)
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