森の中の協奏曲

08.闖入者たち


道中、ドリスの耳は草木や虫の音ではないノイズを拾った。

さり気なくライナーを窺うと、彼も気付いているのか、苦い顔をしていた。

「おいっもう戻ってきたぞ!」

「落ち着けお前ら!音を立てるな!やり過ごせ!」

聞こえていないとでも思っているのか、コソコソと会話が交わされる。

「聞こえてるぞ」

ライナーのため息で周囲の空気が張り詰めた。

「出て来い、お前ら」

「コニー、サシャ」

姿は見えないがこの二人は確実にいる。

ドリスが名指した二人が観念して出てくると、それを皮切りにゾロゾロと同期たちが姿を現した。

想像以上の人数にドリスとライナーは顔を見合わせる。

ざっと10人と言ったところか。

「アンナ…」

「ベルトルト…」

お前らもか、という視線を受けて、アンナとベルトルトは慌てて弁解を図った。

「い、いや、僕たちは…」

「止めたんだよぉ…」

「いや、こうなることはお前らもわかってたはずだ。むしろ、毎夜毎夜の意味ありげな行動は、つけてくれというメッセージと受け取ったね、オレは」

ジャンはもはや開き直っている。

「それで、お前ら結局何やってたんだ?こんな森の中で格闘技もねえだろ」

同期一同はエレンに驚嘆の眼差しを向けた。

尾行現場を当の本人たちに目撃され、気まずさこの上ない状況である。

真相を確かめるのは絶望的だと誰もが思っていたはずだ。

それをこうもストレートに、しかもさらりとやってのけるエレンの鈍感さというか屈託のなさは、ある意味才能と言える。

そうか、とドリスは思う。

エレンがこんな浮かれた連中とこの場にいることが意外だったが、彼だけは純粋にドリスとライナーが何らかのトレーニングをしていると思っていたのだろう。

なんなら混ぜてもらおうとでも考えていたのかもしれない。

ライナーはドリスに視線を送った。

どうするかはお前が決めろということだろう。

別に隠すことでもないのだが、何となく話すのは抵抗があった。

説明するのが面倒だということもあったし、慈善事業と冷やかされるのが嫌だったのもある。

「尾行に失敗したんだから、諦めてよね」

ドリスはやる気無げに片手を揺らした。

ドリスの答えを聞いたライナーも態度を決める。

「そういうことだ」

「えーっ!?そりゃないぜ!」

コニーが食い下がるが、ドリスは取り合わない。

「ほら、早く兵舎に帰らないと、みんな仲良く見つかって教官に大目玉だよ」

教官という単語が効いたのか、みんなの浮かれた顔が真顔になった。

「そうだな。とりあえず戻るか。とりあえず、だがな」

ジャンの含みのある言葉を合図に、一行はぞろぞろと兵舎まで戻るのだった。





兵舎に戻ったら戻ったで、宿舎の入口前に数人の同期たちが待ちかまえていた。

「お、戻ってきたな。どうだったんだよ?って…なんだ、二人も一緒じゃないか。バカだなお前ら、見つかったのか。そんな大勢で行くからだろ」

ユミルが大げさにため息をつく。

「るせー!」

コニーが拳を振り上げた。

「エレン!」

ドリスはギョッとした。

ミカサまでいるとは思わなかったのだ。

このような浮ついた話には十中八九興味がないはずだ。

が、まあ今の呼びかけで納得はした。

同じように、とドリスが探したのはアニの姿である。

周囲を軽く見渡すが、その姿はない。

なんとなく安心した。

世の中は一応は正常に働いているらしい。



兵舎に戻ってきて、おまけにこの時間だ、後は当然寝るだけである。

が、中に入ろうとすると入口をジャンに塞がれた。

「おっと、どこに行くのかな、ご両人」

「寝るに決まってるでしょ。何時だと思ってんの」

「何時だと思ってる、ねぇ…。そりゃこっちの台詞だな。残念だが、その『何時』にお前らが何をやってたか、これから取調べだ」

ジャンの声に反応した周囲の人間が、ドリスとライナーを拘束する。

「おいっ!お前ら何考えてんだ!」

「冗談でしょ…!あっ、ちょっとちょっと…」

二人はなす術もなく食堂へと連行された。



(20130920)


08.闖入者たち

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