森の中の協奏曲

02.自然の摂理


「ご、ごめん、巻き込んで…」

「いや…」

キツネも、ドリスもライナーも、みな疲労困憊でぐったりしていた。

「あ、そうだ…」

ふと思い出し、ドリスは小箱からパンを取り出す。

「お前それ、夕飯か?」

「うん」

ドリスは半分ちぎってライナーに渡した。

「巻き込んじゃったから。お詫びとお礼」

言いながら残りのパンを細かくちぎってキツネの口元に落とす。

すると、ライナーもパンをちぎって地面に撒いた。

「えっ…」

「こいつにやるために持ってきたんだろ」

「そうだけど…」

あーあ、優しいなぁ、ライナーは。

「ありがとう」

ドリスは視線をキツネに落とす。

「食べるかなぁ」

しかし、キツネは数度鼻を動かしただけで口をつけようとはしない。

だからどうなるわけでもないとわかっていたが、ドリスは訴えるような目でライナーを見た。

「オレたちのいる前じゃ食べないだろ。散々危害を加えた後だからな。明日も早い。もう帰ろうぜ」

ドリスは最もだと思い、素直に頷いた。





二人は肩を並べて元来た道を戻る。

闇は深かったが、ランタンが二つになった分、行きよりは歩きやすかった。

「これで仕舞いにしておけよ」

「…規則違反だから?」

「それもあるが。あいつがあそこでああなってるのは運命だ。自然がそう決めた。摂理ってやつだな。むやみやたらに人間が手を加えるもんじゃねえ」

「自然の摂理、か…」

確かに、あのキツネが助かり、再び動けるようになれば、あのキツネがエサとする生き物が代わりに命を失う。

一つの命を助けたところで、それは他の命を奪うことと同義なのだ。

「うん…摂理を重んじることは生態系を維持する上で重要だと思う」

「ああ」

ライナーは軽く眉を寄せる。

「にしても、手ひどくやられたな。噛まれた場所、大丈夫か?」

「実はものすごく痛い」

「見せてみろ」

持ち上げようと力を入れると激痛が走った。

その様子を見たライナーが表情を険しくしてドリスの腕を取る。

「イテテテ!」

「結構深いな…」

「どうしよう!抜け出したの教官にばれちゃうかな!?何とかしてライナー!」

「何とかしようがあるか!とりあえず兵舎に着いたら手当だ」





二人は兵舎にたどり着くと、怪我の処置を済ませた。

ドリスは自分の意志でしたことなので仕方がないが、ライナーまで傷だらけだった。

「本当にごめん」

「気にするな。訓練には支障のない程度だ。それよりお前はどうだ?」

「うーん、何とかうまくごまかす。そのくらいならできると思う」

「無理はするなよ」

「うん。ありがとう」

「じゃ、明日な」

「うん、明日」

ドリスは手を振ってライナーと別れた。



(20130915)


02.自然の摂理

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