あなたを忘れない
(2/9)
リアは、王都への通過地点であるストヘス区の憲兵団支部付近を落ち着きなくうろついていた。
門前で立ち止まってみたり、付近の道をのぞき込んでみたり、傍から見ても何かを探しているのは明らかだった。
やがて、リアは細い路地に目的の姿を見つけて走り出した。
しかし、別の影が目に留まり、咄嗟に身を隠す。
両者は小声で何かを話しているようだった。
口調からして顔見知り、更に言えばある程度近しい関係のようだった。
そんなことは言うまでもない。
リアも両者を知っているのだから。
3年間同じ釜の飯を食った仲間だ。
「エレンを逃がすことに協力してくれないかな」
コートでその身を隠しているのはアルミンだった。
兵団を抜け出し、秘密裏に会いに来たようだ。
リアと同じように。
「逃がすって?どこに?王政の命令に逆らって…この壁の中のどこに逃げるの?」
返答したのはアニだ。
アルミンは、アニにエレン逃亡の手引を打診している。
身体中の血の気が引き、一気に頭に上ってきた。
アルミンやミカサたち数人の同期が集まって、何やらコソコソ話し合っているのは知っていた。
時々上層部の人間と連れ立って歩いているのも知っていた。
その内容は、エレンの身を殊に案じる同期であるはずのリアに伝えられることはなかった。
リアはその理由に心当たりがあった。
「一時的に身を隠すだけさ。王政に真っ向から反発するつもりじゃない。調査兵団の一部による反抗行為って体だけど、時間を作ってその間に審議会勢力をひっくり返すだけの材料を揃える。必ず!」
「ひっくり返す材料…?そんなに都合のいい何かがあるの…?根拠は?」
アルミンは黙りこむ。
「ごめん、言えない…」
審議会勢力をひっくり返すだけの材料をリアは知っている。
アルミンがそれをアニに告げることができない理由も知っている。
けれど、口にはしない。
できない。
誰のためかと問われれば、それはリアの個人的な感情のためだった。
アニは一蹴してアルミンに背を向ける。
それでもアルミンは食い下がった。
「ウォール・シーナ内の検問をくぐり抜けるには、どうしても憲兵団の力が必要なんだ。もう…これしか無い」
「あんたさ…私がそんな良い人に見えるの?」
「良い人か…それは…その言い方は僕はあまり好きじゃないんだ。だってそれって…自分にとって都合の良い人のことをそう呼んでいるだけのような気がするから」
アニが僅かに反応を見せた。
その様子にリアは焦りを覚える。
「すべての人にとって都合の良い人なんていないと思う。誰かの役に立っても、他の誰かにとっては悪い人になっているかもしれないし…だから…アニがこの話に乗ってくれなかったら……」
本当にアルミンは頭がいい。
「アニは僕にとって悪い人になるね…」
そして口が上手い。
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