すれ違い、振り返れば
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「ついて行くって言ってるでしょ!エドのバカー!!」
「つれてかねぇっつってんだろ!いい加減にしろ!!」
苦笑いのハボックに引きずられながら、リサは遠ざかってゆく二人に悪態をつく。
気をつけて帰ってねとアルは手を振ったが、エドは一度もナズナを振り返らなかった。
小さくなる二人の姿がついに見えなくなった時、リサは堪らずに視線を伏せた。
エドはもう、私を見てもくれない。
「ナズナちゃんも頑張るねぇ。けど、大将は首を縦には振らないと思うぜ?」
慰めるように、諭すように、ハボックがリサの肩を叩く。
最近、本当にそうなのではないかと思う。
「そんなことない」と拳を握る自分が、「そんなことわかっている」と俯く自分に負けそうになっていた。
「そんなこと言われたって、諦めませんよーっだ!」
それを悟られるのが嫌で、ナズナは思い切り舌を出す。
そう。諦めるわけにはいかない。
だって、傍にいたいんだ。
守りたいんだ、エドを。
私の知らないどこか遠くで、エドが危険な目に逢っているなんて絶対に嫌だ。
エドが危険な目に逢っていることにも気づけないなんて……耐えられない。
旅立ちを告げられた日、目に涙を溜めて「連れていって」と懇願したナズナに、エドは決してyesと言わなかった。
これはオレたちの旅だ、と。
お前は赤の他人だ。
そう言われたような気がして、ナズナは唇を震わせた。
ずっと三人一緒だと思っていた。
家族だとさえ思っていた。
だから裏切られたような思いで、小さくなってゆく彼らを呆然と眺めていたのだ。
だが、同時に気づいてもいた。
これはエドの優しさなのだと。
だから、待っていようと思った。
エドが帰ってきた時に笑顔で出迎える、それが自分にできる一番のことで、エドの望むことなんだ。
そう言い聞かせて納得していた。
買い出しに出かけた先で、満身創痍の彼を見つけるまでは。
腕に、首に、頭に包帯を巻いて、アルに身体を預けるようにして道を歩いていた。
遠目に見ても、大怪我だとわかる。
それでもエドは笑っていた。
久しぶりに見る彼のすがすがしい笑顔。
しかし、痛々しく巻かれた白い包帯との対比は、ナズナを安心させるどころか、心をざわめき立たせた。
それはまるで、こんなこと日常茶飯事だと言っているみたいに見えたのだ。
こんな危険な旅だなんて聞いていない。
言いようのない不安が、ナズナの胸を突いた。
あなたは一体何をしているの?
あなたは一体、どこにいこうとしているの?
今は離れていてもちゃんと繋がっていると信じていた二人の道が、切れかけている気がした。
エドは自分の手の届かない、遠くに行ってしまうのではないか。
――もしも目的を達成して全てが終わっても、エドは私の元へは帰って来ないかもしれない――
根拠はないが、そう思った。
身体の中を冷たい氷が走る。
嫌だ
そんなの嫌だ!
焦燥感に押し出されるように、遠ざかる二人を追って駆け出した。
「うわっ!おまっ…どうしたんだよ!?」
「一緒に行くの!もう決めたの!」
けれど、やはりエドはナズナの同行を認めなかった。
何度ナズナが食い下がっても、頑として首を縦に振らない。
何度出向いても、今回のように追い返されてしまうのだった。
最初は苦笑いをしながらも迎え入れてくれていたエドだったが、回を重ねるごとに態度が冷たくなっていった。
もういい加減にしろと思っているのかもしれない。
そんな態度の変遷を目の当たりにすると、さすがに堪えた。
もうこの辺にしておいた方がいいかもしれないと思ったこともある。
けれど、あの笑顔が頭を掠めるのだ。
ボロボロの身体で平然と笑うエド。
遠い、遠い場所へ歩いてゆく彼ら。
ダメだ、やっぱり。
諦めたくない!
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