鋼の錬金術師短編 | ナノ

すれ違い、振り返れば


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――バカッバカッ!危険なことばっかりして!

私の心配なんて、気にも留めてないんだから!――


























ナズナは目を開いた。

ここはどこだろうか。

身動きした途端、鈍い痛みを全身に感じた。

思わず悲鳴を上げる。

その声に反応してすぐ側で塊が二つ動いた。

「ナズナ!よかった、目が覚めたんだね!」

「アル…」



病院のようだ。

そう、エドを突き飛ばしたナズナは瓦礫の下敷きになり、病院に搬送されていたのだ。

幸い、感覚がない部分や痛みが尋常でないような部分はない。

大事には至っていないようだ。





「ナズナ…」

「エド…」

エドは下を向いたままで、その表情は伺い知れない。

少し震えているようにも見えた。

かと思うと、勢いよく顔を上げて怒声を放った。

「バッカヤロウ!!何であんなところにいたんだ!」

ナズナは一瞬身をすくませる。

しかし、間違ったことをしたとは思っていない。

瓦礫が崩れてきていることを知り、自ら身体を庇ったからこの怪我で済んだのだ。

あのまま無防備なエドが瓦礫の下敷きになっていたら、最悪の事態だってあり得ただろう。

「何よ!助けてあげたんでしょ!お礼の一つや二つ、もらってもいいくらいだわ!」

「助けなんて頼んでねぇだろ!」

「あのままだったら瓦礫の下敷きだったのよ!?」

「なってんじゃねぇか!お前が!」

「ちゃんと庇ったわよ!だから軽傷で済んだ!」

「軽傷!?気ぃ失って病院に運び込まれるのがか!?」

「少なくともエドが負うはずだった怪我よりはマシよ!」

「オレには錬金術がある!お前の助けがなくても防げたさ!」

「ウソ!ギリギリまで気づかなかったくせに!あれじゃ錬成してる暇なんてなかった!」

「そうだとしても、アルがいたさ!」

「アルだって別の方向見てたじゃない!」

「アルは瓦礫が崩れる前に気づいてた!お前がいることに動揺して対処が遅れたんだ!」

「うそ!」

ナズナは助けを請うようにアルを仰ぎ見る。



「そうだな、アル」



噛んで含めるようにエドがアルに念を押した。

「う…うん…」

アルは戸惑いながらも肯定の意を示す。



ナズナはアルの言葉を聞いて、必死に作っていた虚勢をグシャリと崩した。





後に残ったのは、泣き出しそうな、頼り無げな表情だけだ。



「…だって心配だったんだよ。二人とも危ないことばっかりしてるし、どんどん私の知らない場所に…遠くに行っちゃいそうで…」

ナズナはそう呟いて俯く。





しかし、エドは更に声を荒げた。

「そんなことでオレたちの旅にくっついて来たのか!」

ナズナは、あまりの物言いにエドを睨む。

怒りで頭が真っ白になった。

「そんなことって…!」

ナズナの言葉を制すように、エドは一際大きな声で叫んだ。





「足手まといなんだ!わかんねぇのか!」





エドの叫び声は病室内に反響し、その場の空気を震わせてゆっくりと落ちた。








ナズナの怒りは、一瞬のうちに引き、代わりに胸を抉るような痛みが走った。

邪険に扱われたことはあっても、ここまではっきりと拒絶されたのはこれが初めてだった。

ナズナの鼓動はドクドクと脈打った。

火が付いたように全身が熱くなり、目頭がツンと痛む。

両手で掛け布団をきつく握った。

























「……ぅ〜〜〜〜!」

涙を堪えようとすると感情が内に籠ってしまう。

それを逃がそうと、ナズナは無意識のうちに唸り声を上げていた。

張り裂けそうな、痛々しい声だった。





エドはそんなナズナに背を向ける。

そのままゆっくりと病室を出ていってしまった。

「ちょっと兄さん!ナズナ、今のは兄さんが悪いんだ。気にすることないからね!」

アルは慌ててエドの後を追っていった。







病室に残されたナズナは、遂に堪えきれず、堰を切ったように泣き出した。



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