すれ違い、振り返れば
(3/4)
――バカッバカッ!危険なことばっかりして!
私の心配なんて、気にも留めてないんだから!――
ナズナは目を開いた。
ここはどこだろうか。
身動きした途端、鈍い痛みを全身に感じた。
思わず悲鳴を上げる。
その声に反応してすぐ側で塊が二つ動いた。
「ナズナ!よかった、目が覚めたんだね!」
「アル…」
病院のようだ。
そう、エドを突き飛ばしたナズナは瓦礫の下敷きになり、病院に搬送されていたのだ。
幸い、感覚がない部分や痛みが尋常でないような部分はない。
大事には至っていないようだ。
「ナズナ…」
「エド…」
エドは下を向いたままで、その表情は伺い知れない。
少し震えているようにも見えた。
かと思うと、勢いよく顔を上げて怒声を放った。
「バッカヤロウ!!何であんなところにいたんだ!」
ナズナは一瞬身をすくませる。
しかし、間違ったことをしたとは思っていない。
瓦礫が崩れてきていることを知り、自ら身体を庇ったからこの怪我で済んだのだ。
あのまま無防備なエドが瓦礫の下敷きになっていたら、最悪の事態だってあり得ただろう。
「何よ!助けてあげたんでしょ!お礼の一つや二つ、もらってもいいくらいだわ!」
「助けなんて頼んでねぇだろ!」
「あのままだったら瓦礫の下敷きだったのよ!?」
「なってんじゃねぇか!お前が!」
「ちゃんと庇ったわよ!だから軽傷で済んだ!」
「軽傷!?気ぃ失って病院に運び込まれるのがか!?」
「少なくともエドが負うはずだった怪我よりはマシよ!」
「オレには錬金術がある!お前の助けがなくても防げたさ!」
「ウソ!ギリギリまで気づかなかったくせに!あれじゃ錬成してる暇なんてなかった!」
「そうだとしても、アルがいたさ!」
「アルだって別の方向見てたじゃない!」
「アルは瓦礫が崩れる前に気づいてた!お前がいることに動揺して対処が遅れたんだ!」
「うそ!」
ナズナは助けを請うようにアルを仰ぎ見る。
「そうだな、アル」
噛んで含めるようにエドがアルに念を押した。
「う…うん…」
アルは戸惑いながらも肯定の意を示す。
ナズナはアルの言葉を聞いて、必死に作っていた虚勢をグシャリと崩した。
後に残ったのは、泣き出しそうな、頼り無げな表情だけだ。
「…だって心配だったんだよ。二人とも危ないことばっかりしてるし、どんどん私の知らない場所に…遠くに行っちゃいそうで…」
ナズナはそう呟いて俯く。
しかし、エドは更に声を荒げた。
「そんなことでオレたちの旅にくっついて来たのか!」
ナズナは、あまりの物言いにエドを睨む。
怒りで頭が真っ白になった。
「そんなことって…!」
ナズナの言葉を制すように、エドは一際大きな声で叫んだ。
「足手まといなんだ!わかんねぇのか!」
エドの叫び声は病室内に反響し、その場の空気を震わせてゆっくりと落ちた。
ナズナの怒りは、一瞬のうちに引き、代わりに胸を抉るような痛みが走った。
邪険に扱われたことはあっても、ここまではっきりと拒絶されたのはこれが初めてだった。
ナズナの鼓動はドクドクと脈打った。
火が付いたように全身が熱くなり、目頭がツンと痛む。
両手で掛け布団をきつく握った。
「……ぅ〜〜〜〜!」
涙を堪えようとすると感情が内に籠ってしまう。
それを逃がそうと、ナズナは無意識のうちに唸り声を上げていた。
張り裂けそうな、痛々しい声だった。
エドはそんなナズナに背を向ける。
そのままゆっくりと病室を出ていってしまった。
「ちょっと兄さん!ナズナ、今のは兄さんが悪いんだ。気にすることないからね!」
アルは慌ててエドの後を追っていった。
病室に残されたナズナは、遂に堪えきれず、堰を切ったように泣き出した。
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