思いは遠い


「いや〜今回の任務は楽だったさ〜」


『何で私ばっかり働いてんの…お給料上げて下さいよ』


「ラビ、**ばっかり働かせるなよ。仮にも女子なんだから」


『仮にも、ってどういう意味ですか?!!』


そんなに私は女の子っぽさがないのか。そりゃあ、リナリーに比べたら…全然だけど。強くて可愛くて、芯の通ったリナリーみたいな女の子ほかにいない。大好きな友だちだけど…何度リナリーになりたいと思ったことか。そうすれば、アレンと、もっと―


「ふふーん」


何故かへらへら笑って肩に寄りかかってきたラビ。


『なに?』


「べっつに〜」


『???』


「**の今の顔、女子っぽかった」


『………意味分かんない』


あまりにも顔を近づけてくるものだから、そっぽを向くと、そこには任務帰りのアレンとリナリーがいた。真っ先に目が合ったのは、アレン。


「こん…ばんは」


『…お、おかえり』


「アレンとリナリー、おかえり〜」


「ただいま。ラビ、今すぐ**から離れないと蹴るわよ?」


「ご冗談を〜…ははは」


リナリーに促されたラビは、しぶしぶと私の肩から離れて、脱兎のごとく部屋に戻っていった。


『えっと、報告終わったんで、じゃあ…また』


「うん、**お疲れ様」


リナリーに優しく微笑まれ、つられて私も笑った。アレンをちらっと見ると、ラビが去っていった方を見つめていて、目が合うことは無かった。






小腹を満たすために夜の食堂に行くと、広い食堂のなかで蕎麦をすする神田しかいなかった。


『神田さーん』


「何だ」


『別に何も。話し相手が神田しかいないだけ』


「俺はお前と喋ることはない」


『そんな冷たいこと言わないでよー』


食事をテーブルの上に置いて、神田の目の前の席に座った。神田はちらっとこちらを見ただけで、再び蕎麦をすすった。


『…ねぇ、蕎麦好き?』


「だから食ってる」


『うん、そうだよね。神田は人を好きになったことある?』


「はあ?」


いきなり好きな蕎麦から好きな人の話へと話題が変わり、神田は箸を止めてこちらを見た。


『私好きな人がいるんだけど、すっごく悩んでいるの!』


「…別に色恋に興味ない」


『え〜嘘だ〜、健全な男子なら好きな人の1人や2人いるでしょ?!!』


「うるさい」


『うるさくない!』


こんなにも話が通じない奴だとは思わなかった。ラビはどの町に行っても必ず1人はストライクするのに、神田は人に興味が無さすぎる。
どうにかして神田の好きな人を知って、弱味として握りたい。蕎麦をすする神田を睨みつけていると、誰かの足音が聞こえた。こんな時間だし、科学班の誰かだろうと気にもせずに神田に話しかける。


『神田の好きな人教えてよ〜』


「………」


無視ですかー。


『…来週の神田の食事、全部おごってあげる』


その一言が効いたのか。蕎麦を食べつくして手を合わせた神田は、こちらを向いた。


「まあ、**のことは嫌いじゃない」


そう言って、持っていた箸の先でおでこを突かれた。


『えっ、…それって、あの…って、ああ!おでこに蕎麦汁つけたな!!!』


突かれたおでこを触ると、蕎麦汁がつけられていた。


「ふっ…来週は蕎麦食べ放題だな」


私をバカにするような笑みを向けて、空になった食器を持って去っていった。


『ムカつく…けど、**も可愛いとこあるぜ…って解釈でいいのかな???』


あの言葉はただ私をからかいたかっただけだろう。私の恋については何も解決してないけど、神田から嫌われていないということは分かった。


『こんな風に…アレンとも話したい、な』






「神田」


「何だモヤシいたのか」


「アレンです!!!…じゃなくて、」


「何だよ」


「その…神田、は…**のこと―」


「ああ…**も、俺のこと嫌いじゃないみたいだが?」


「っ?!!」


「**によろしくな」


「………」







神田が去って、もんもんと色々なことを考えながら食事をした。


『ごちそうさま』


そう言ってようやく顔を上げて、食堂を見渡してみると、離れた場所で背を向けたアレンが食事をしていた。もしかして、さっきの足音はアレンだったのか。
広い食堂に2人きり。これは、さっき話せなかった分のチャンス。そそくさと食器を片付けて、アレンに声をかけた。


『あ、アレン』


「…**」


声をかけると、アレンは目を細めて笑った。いつもの笑顔ではなく、何というか…愛想笑いに近い感じだった。


『今回の任務、どうだった?』


「リナリーと協力してすぐ終わりましたよ。**はラビとの任務…楽しかったですか?」


『え、うん…。楽しかった…かは、分からないけど、私がピンチになった時はちゃんと助けてくれたから―』


「そうですか」


私が話を終える前に、アレンの言葉に遮られた。いつもとは違う雰囲気のアレンに、少し胸がざわついた。


『あの、アレン…』


「**は―」


『?』


「………もう眠いんで、食事は部屋に持っていきます」


口を噤んだアレンは、食器を持って立ち上がった。そそくさと立ち去るアレンの背に声をかけた。


『えっと、しっかり…休んでね。おやすみ、アレン』


「おやすみ…**」


振り返って、少し眉尻を下げて笑ったのは、疲れているからじゃない。
そう思ったけど…私はアレンにどんな言葉をかければいのか、分からなかった。


「**…」



∞2016/09/11


真咲さん、リクエストありがとうございました!

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