私の方が好き


「そうそう、こっちに手をかけてー」


〈あーあー、合気道部の****ー!至急音楽室までー!〉


『え、』


合気道の部活中、何故か放送で呼び出された。この声はヤマトくんだよね…


「**ちゃん呼び出されちゃったね」


『すみません先輩、行ってもいいですか…?』


「うん、でもちゃーんと復習しておくように!」


『はい!』


急いで着替えて音楽室へ向かう。至急、ってことは何かあったのかな?こっちの世界か…あっちの世界か―


『っ、ヤマトくん!何かあったの?!』


「おー。おつかれー」


『お、おつかれ…あの、何で…呼び出されたのかな?』


「ほい、ギター」


急いで音楽室まで来たのに、部屋に入るとボーっとイスに座りながらギターをいじってるヤマトくん。しかも、そのギターをいきなり渡された。


『ぎ、ギター…だね』


「今日ライブあんだけどさ、俺はボーカルだけ入るからギターよろしく」


『え、ギター弾ける人は?』


「あー、なんか補習サボって先生に捕まったんだってよ。だから、**がピンチヒッター」


『え、…でも今日は太一くんと―』


「ライブに太一と空呼んでるから、**が出ることも言っといた。な、良いだろ?」


『う、うーん…』






「みんなーありがとう!今日のピンチヒッター**に拍手を!」


小さなライブハウスの中に拍手と歓声が響き渡る。こういうのを聞くと、ピンチヒッターも悪くないな、と嬉しくなる。盛り上がる人ごみの中に太一くんと空ちゃんを見つけて、大きく手をふってくれた。

アンコールに応え終わり、楽屋に戻って帰り支度をする。


「じゃあお疲れ。**さん、今日はありがと」


『いえいえ、お疲れさまー』


「**おつかれ。今日はサンキューな、さすが慈愛の紋章の持ち主」


『どういたしまして。友情の紋章をお持ちのヤマトさんには、きーっちり!お礼してもらうからね』


何かおごって貰おうかなーと考えながら、帰り支度を終えたところで、楽屋の扉が開いた。


「お、太一に空。来てくれてありがと」


「**ちゃん、素敵だったわよ!」


『ありがとー空ちゃん!』


「太一、今日は**借りて悪かったな」


「ん、別に…」


「**、太一来たから一緒に帰れよ」


空ちゃんと話していて、太一くんに気づかなかった。少し困ったように笑う太一くんを見て、バンドを優先してしまったことを申し訳なく思う。


『太一くん…じゃあ、お先に』





ライブハウスを出て、太一くんと2人で暗い夜道を歩く。


『ごめんね…バンド優先しちゃって』


「いいよ。ピンチヒッターいなきゃヤマト困ってたしさ。**は昔から優しいよな」


『そ、かな…』


「でも、何ていうかさ…そのー」


急に顔を赤くして頬をかく太一くん。何か言いたげだけど、言葉につまっているみたい。


『太一くん、ゆっくりでいいよ?』


「あー…うん。その、たまには…お、俺を?優先、して…く、れたら…」


『ほ、本当にごめんね!太一くんよりヤマトくんってわけじゃ―』


「いや、分かってる!分かってるよ、**は優しいから…でも、一応…彼氏、だし。もっと一緒にいたい」


『うん…私も、一緒にいたい』


「ほ、ほんとか…?」


『え、逆に何で疑う…の?』


「だって…中学に入ってから、何も変わらないし。結局、付き合うって言ってもさ…今までみたいに、俺と**とヤマトと空で変わらずにいるんだろうなーって」


『確かにずっと同じメンバーで変わらない…けど、昔よりは、やっぱり太一くんを…好き、って気持ちは変わった』


「え?」


『な、何か…昔の好きは、友達として?っていうのかな。みんなと同じくらい太一くんも好き、だった。でも、今は友達じゃなくて…ちゃんと1人の男の子として、好きになってる』


はっ、とした。

何を語ってしまったんだ自分!と思い、おずおずと太一くんを見ると、顔を先ほどよりも真っ赤にして、口をポカーンと開けている。


「ヤバい…何か、すっげー…嬉しい」


太一くんが手で顔を覆いこんでしゃがみこむ。つられて私も慌てながらしゃがみこむ。


『たたたたたいちくん、何か、あの…』


「もうさ、それ…やめね?」


『?』


太一くんが恥ずかしそうに笑いながら顔をあげた。


「中学生になったんだし、太一…って、呼んで?」


『た…いち』


「うん。**…俺も1人の女の子として、**が好きだぜ」


そう、優しく笑って頭を撫でてくれた。嬉しくて嬉しくて。たぶん、太一…が私を好きな以上に、私が太一を好きなんだな。


∞14/11/07

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