太一さんにキスをされたと一瞬で分かった。 唇が触れて数秒、ついばむ様に唇を動かして、太一さんは離れた。 「100点間違いなし!」 『………』 目の前の太一さんの笑顔に、とても恥ずかしくなった。太一さんに返す言葉が、出てこない。 「**?」 俯いた私の顔をのぞき込むようにして、名前を呼ばれた。 たまらなくなって、太一さんに思い切り抱き着いた。 「え、**?」 『〜っ、』 少し背伸びをして、太一さんの肩に顔をうずめる。言葉に出来ない、嬉しさと恥ずかしさ。 「うんうん」 太一さんは優しい声でそう答えて、私の背中をポンポンと叩いてくれた。 私はこんなにも恥ずかしいのに、太一さんは平気で…大人だなーと単純に思った。私も太一さんに見合う人になりたい。 そう思いながら、深呼吸をして、太一さんの肩に顎を乗せるように顔を上げた。 『っ、あ』 顔を上げた先には、タケルくんがいた。そういえば、さっき廊下の先にいたのを見たんだった。 でも、今は廊下の先で向き合うように、目が合っている。 「………」 タケルくんはただ無言で、そこから動くことなく、視線が交わる。もしかして、私と太一さんのキスを見られたのかな、と恥ずかしくなり、再び俯こうとした。 その瞬間ータケルくんの目から涙がこぼれた。 表情を変えることなく…瞬きをする度に、涙がツーっと、タケルくんの頬を伝って落ちていく。 私はタケルくんから目が逸らせず、 心がぎゅっと締め付けられる気持ちになった。 先ほどまでの嬉しくて、恥ずかしい気持ちなんて…もう無くなっていた。 どうして、タケルくんが泣いているのか。 どうか、泣かないで。 お願いだから、泣かないで。 そう強く思っていたら、胸が握り潰されるように苦しくなって、私まで涙が込み上げてきた。 『っ、ぅ…』 どうしても、タケルくんに涙を見せたくなくて…再び、太一さんの肩に顔をうずめた。 遠くで響いた足音が、さらに遠くへと…消えていった。 「………**」 『あ、はい…すみませんっ』 太一さんから離れて、照れて顔を隠すように…涙をぐっと拭った。 「――帰ろう」 『………、はい』 手を差し出されて、一瞬ためらったけど、その手を強く握った。 ∞2016/07/09 TOPへ戻る |