「意外な出会い」
今年の4月、俺は実家から離れた学校に入学した。
その学校には寮があった。
自宅から時間を掛けて通うのは面倒だった。だから、寮に入ることを決めた。
「おっし!これぐらいで荷物は大体片付いたかなー」
今日はその入寮の日だ。
宅配で頼んでおいた荷物もしっかり部屋に運ばれていた。
それを、午前中から荷物整理をしていた。
元々、寮に持ってくる荷物は少なく、休まずに片付ければ、お昼にはほとんど終わっていた。
細かいものは明日片付ければいいだろう。
お昼にもなったことだし、気分転換にコンビニに行って昼飯でも買って来よう。
昼飯を食べ終わって、一際大きな段ボールを広げた。
段ボールの中には、傷ついていない新品のパソコン。
高校入学祝いという名目で、親から買って貰った最新型のパソコンだ。
そのパソコンを机の上に置いて、電源コードを差し、電源を入れた。
ディスプレイが明るく光る。起動するのは今日が初めてだ。
箱の中から説明書を取り出し、まずは基礎的な初期設定を行っていく。
初期設定は説明書を見なくてもできる。設定はスムーズに進んだ。
他に設定をすることはないかと、説明書をパラパラ捲っていると、説明書の中から何かが落ちた。
足元に落ちたものを拾って見ると、それはCD-ROMだった。
なんのソフトだろうと、ケースに付属されていた説明書を読んだ。
「何々ー?……『機械が苦手な方に推奨。サポートAIを活用してみませんか?』か…」
パソコンを購入した際、こんなCD-ROMがついているという説明はなかった。
だが、俺は機械音痴。こういうソフトがついてきてくれるのは助かる。
なにをどう使えばいいのか、正直不安があった。
ケースからCD-ROMを取り出して、早速パソコンにインストールする。
インストールが始まると、画面が青色に変わり、長ったらしい英文が表示された。
説明書に書いてある通りに操作を進めると、ダウンロードを開始する画面に変わった。
ソフトをダウンロードする作業さえも初めて。
若干、ドキドキしながらそのダウンロードの文字をクリックした。
ダウンロードが終了すると、終了の表示も出ることが無く、元の画面に戻った。
普通、ダウンロードが終わったら、終了の表示が出るはずだ。
もしかしたら、新手のネタみたいなもので、騙しソフトだったのだろうか。
そう思いながらパソコンからソフトを取り出し、ケースになおした。
その時だった。
画面の右下に、青色のフォルダが増えていることに気付いた。
さっきまで、こんなフォルダは無かった筈だ。しかも青色。
通常なら黄色のフォルダのはずだ。
そして、フォルダには星形のマークがついていた。
人間には、誰しも“興味本位”というものがある。
俺は、突如出現したそのフォルダが気になり、フォルダのアイコンをクリックした。
すると、フォルダは開くことはなかった。
何かのバグかと思った。だが、それはすぐに否定されるようなことが起こった。
フォルダは開くことなく、フォルダの中から何かがヒョコッと出てきたのだ。
フォルダには手のようなものが掛けられている。
それでは、この黒いものは頭だろうか。
もう一度、フォルダをクリックすると、ピョコンッというSEとともに、その黒いものが顔を出した。
一見、小さな人間のようにも見える。蟹のような頭が特徴的な、小さなマスコットみたいな人間だった。
そいつはトテトテと画面の中心まで来ると、まるで俺の目を見ているかのように綺麗な青い目でこっちを見据えた。
「こんにちは」
第一声が“こんにちは”。
喋るとは思っていなかったので、俺は口を開けたままそいつをガン見するしかなかった。
そんな俺の様子を見ているかのように、そいつは答えた。
「答え方を知らないのか?説明書の34ページを見てくれ」
とりあえず、素直に説明書の34ページを広げた。
そこには、『AIとの会話方法』と書かれていた。どうやら、こいつがサポートAIらしい。
AIとの会話には、マイクが必要だと書かれていた。マイクが無い場合は、チャットを送れば良いらしい。
「方法は分かったか?分かったら返事をして欲しい」
返事をするまで消える気はなさそうに見えた。
仕方なく、説明書を見ながらチャットバーを出した。そこに、簡単に文字を打つ。
「えと…【有難う、お蔭で分かった】っと…送信」
エンターを押してチャットを送ると、そいつは大きな目を一層大きくして、こちらを見た。
「お礼はいらない、こちらこそダウンロードしてくれて有難う」
凄い。ちゃんとこちらの言葉を理解して返事をしている。
システムの凄さに感動していると、そいつはすかさず話し始めた。
「俺の名前は【遊星】。お前の名前はなんだ?」
「俺の名前?えぇー…【クロウ】っと」
再びチャットを送ると、またそいつ…遊星は反応を示した。
「そうか、クロウと言うのか。宜しくな。俺はお前をサポートするAIだ。困ったときは何でも言ってくれ」
そう言って、任せろとばかりに誇らしく胸を張って、拳で胸元をポンッと叩いた。
小さい身体なのに、自信満々に胸を張っている姿を見て、不覚にも可愛いと思ってしまう。
前言撤回。
これは面白そうなCD-ROMだ。明日にでもマイクを買って来よう。そう思いながら、俺はチャットを送った。
【これから、宜しくな。頼りにしてるぜ】
[ 77/211 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]