「Ruins -Ein.2-」






 人が多く行き交っていたであろう、駅。

 今はもう、柱は崩れ改札口は錆びつき、雨水が崩壊した天井から滴り落ちていた。
 不気味な雰囲気が漂う駅構内。

 ライトで辺りを照らすが、余計に不気味な何かを引き立たせている。








――…か……けて……だ…








 どこからか、声が聞こえる。


 無機物のような、人の声。








――だ……か……たす……






 
 周囲を見渡すが、人が居る気配はない。
 ライトで足元を照らしながら、構内をウロウロ歩き回ってみた。

 すると、徐々に声が鮮明に聞こえてきた。








――…れか……たすけて……さ…








 男の人の声が聞こえる。


 まだはっきりとは聞こえないが、誰かが助けを求めているようだ。
 遊星は、声がする方へ向かいながら、声を張り上げた。




「誰だー!!誰か、ここに居るのかー!!」




 遊星の声が構内に響き渡った。
 その声が届いたのか、先ほどの男の人の声が再び聞こえてきた。






――…はーい…!!ここ…す…ここで…す…





 
――はやく……しない…きの…てい……






 ところどころ、声が途切れる。
 何かあるのだろうか。弱っているのだろうか。

 遊星は、声が聞こえた方へ走って行った。
 どんどん声がハッキリ聞こえてくる。声も大きくなってきた。






――ここです!……早くしないと…機能停止して…







 どうやら、地下へ続く階段の向こうから声がするようだ。

 だが、階段を下りた先には、柱が崩れ道を塞いでいた。
 声はこの先から聞こえる。



 よく見ると、ギリギリ通れる隙間があった。しゃがんで行けば、やっと通れるくらいの隙間だった。
 遊星は荷物を背負い直し、身体を低くしてその隙間を通った。














 広い場所へ出た。
 ここは駅のホームだろうか。所々壁が崩れて分断されているが、それでも十分な広さだった。

 遊星は、声の主を探そうと入念に周囲をライトで照らすが、人の気配は一切しない。







――助けてください!……助けてください!…






 再び声がした。
 聴覚だけを頼りに、周囲をゆっくりを歩き回りながら場所を探した。





「……ここか?」




 一つだけ、大きな扉があった。
 取っ手を掴んで回してみると、どうやら鍵は掛かっていない。開くようだ。

 遊星は、その扉を開けて中へ入った。




――助けてください!これ以上水に濡れると…バッテリーが切れて…機能停止…して…







 遊星が顔を上げると、上の突き出た鉄パイプに、機械のようなものがぶら下がっていた。
 声の主はこの機械の様だった。

 近くにあった椅子を机に乗せ、それに乗ってその機械を降ろしてやった。

 機械は青い光を放っている。






――助けていただいて、ありがとうございます





「お前は?」





 遊星が聞くと、その機械は遊星の言葉を遮った。







――詳しいお話は後で…ここは危ない、早く外へ……早くしないと、倒壊してしまいます






 その時、大きな揺れが起こった。
 壁にひびが入り、天井から石や埃が降ってきた。






――早く、早く外へ。ここに居ては危険です





「どうやら、そうみたいだな」





 遊星は、機械をしっかり抱えて、部屋から出た。
 外に出ようと、逃げられる場所を探すが辺りが暗くて視界が悪い。







――改札口の方へ






 機械が指示した方に、無意識に走った。
 改札口の前に、シャッターが降りていた。





「行き止まりだぞ!」





――このシャッターの向こうが外です。シャッターを開けてください





 遊星は、機械を改札の上に置いて、シャッターに手を掛けた。
 力を入れて一気に上に上げようとするが、なかなか上がらない。





「開かないぞ!」





――そんなはずがありません、もっと力を入れて





 機械の言うとおりに、更に力を入れてシャッターを上に上げようとした。
 だが、やはり動かない。




「ダメだ…、全然動かない…」
 




――お待ちください。もう一度周辺状況を解析致します。





 機械が、青い光を点滅させながら、周囲の状況を分析している。
 そして、機械は言い辛そうな声色で言った。




――えっと…鍵が掛かってて開かないみたいですね…たぶん…





「…………」





 やはり開かないんじゃないかと、遊星はため息をついた。
 機械は申し訳なさそうに一言謝罪した。





――で、でもでもっ、近くに鍵があると思います!…たぶん





 たぶん、か。
 遊星は呆れそうになるが、仕方ないと機械を抱え直して周囲を探すことにした。






――待ってください





 急に、制止の言葉が入る。
 遊星は、機械の言葉に耳を傾けた。





――ここには、危険な思念が残っています





「しねん?しねんって…なんだ?」





――ここで亡くなった人たちの思い、と言いますか…。要するに、幽霊です






「それが、ここに?」





――えぇ、とても危険です。襲われてしまいます






「じゃあ、どうすれば?」





――近くに、武器になりそうなものがあります。それを手に入れましょう。右に行ってください





「分かった、右だな」





 遊星が右へ歩き出そうとした時、再び機会が制止した。





――分かっていますか?右ですよ?…お箸を持つ方ですよ?





「……俺は箸を左で持つぞ?」






――えぇっと…それじゃあ…







 機械の慌てっぷりに、遊星もつい笑みが零れる。
 こうやって微笑んだのは、どのぐらいぶりだろうか。




「大丈夫だ。右、だな」




 遊星は、右へ歩き出した。




 右へ向かった先には、男子トイレがあった。
 機械が言うには、その中に武器になる物があるらしい。

 ライトで隅から隅を照らしながら探した。



 ロッカーの前に、それっぽい物が立て掛けられていた。





「これ、竹で出来ているんだな…」





――それは“竹刀”って言うんですよ





「へぇ…初めて見た」




 遊星は、それを左手に握って、感触を確かめる。




「これで…幽霊をどうにかできるのか?」





――あぁ、大丈夫。いずれ、他にも強い武器が手に入るよ





 早く外へ出ないと。再び鍵を探し始めた。
 
 一旦外に出ると、ライトで照らした場所から、青いフワフワしたものが浮いている。




――あれが、思念。幽霊です




「あれが?どうすればいいんだ?攻撃して当たるのか?」




――攻撃してみないと分かりません




「……人任せだなっ」




 半ばヤケクソで思念体を叩く。

 すると、効いているようで攻撃される前に追い打ちをかけた。
 思念体は力尽きたように地面に堕ち、ゆっくりと消えて行った。






――さあ、早く鍵を











 鍵は、女子トイレの奥に落ちていた。
 女子トイレの中も思念体が居たが、距離をとって攻撃すれば、そこまできつい相手ではなかった。

 さすがに、壁から伸びる白い手には、腰が抜けそうにはなったが。



 手に入れた鍵でシャッターを開け、俺たちは外へ出た。



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